「アオクソモクソア」は回文になっています。頭から綴ってもお尻から綴っても同じ、タケヤブヤケタの類です。意味があるわけではない文字遊びで、カバーを描いたアーティストのリック・グリフィンが作詞のロバート・ハンターにヒントをもらってつけたのだそうです。

 そのグリフィンの手掛けたジャケットは前作に比べれば大人しいものですが、こちらの方が人気が高いようです。もともとはコンサートのポスターだったそうですが、グレイトフル・デッドのシンボルともなるスカル&ローゼズの先取りのようでもあり、イメージが膨らみます。

 グレイトフル・デッドの3枚目のアルバムとなる「アオクソモクソア」は前作に引き続きサイケデリックなアルバムになりました。ばりばりサイケな人にはそれほどでもないのでしょうが、ゆるゆるな私には十分サイケに聴こえます。揺らいでいる感じです。

 当時、デッドは演奏ができるボールルームを始めたものの長続きせず、倒産の憂き目にあいました。それでも、といいますか、それだからこそ、彼らは演奏を究める道を歩むこととなり、後の名声につながっていきます。人生万事塞翁が馬です。

 デッドはこの作品で初めて16トラックの機材を導入しました。ロック界では最も早い部類に入ります。それが嬉しくて全トラックを埋めようと延々とスタジオでセッションを続けたため、金がかかり過ぎてまたまたとんでもないことになってしまいました。

 その割にはさほど実験臭が強いわけではないものの、ともあれ前作と並んでデッドの実験時代を飾る傑作になりました。ジェリー・ガルシアも気に入っていたようで、自分のペット・アルバムの一つで、自分が求めるサウンドになり始めてきたと語ったことがあります。

 本作では前作でピアノにいたずらしていたトム・コンスタンティンが正式にメンバーになりました。また、ハンターが初めて全曲の歌詞を手掛けました。作曲は全曲ガルシアが関わっており、ガルシアとハンターのコンビは嬉々として曲を生み出していきました。

 しかし、ガルシアは「バンドが演奏するためではなく曲を書くために書いていた」と語っており、実際、このアルバムの曲の多くは「チャイナ・キャット・サンフラワー」の例外はあるものの、後のライヴで定番となることはありませんでした。

 ガルシアは、本作と続く傑作ライヴをセットで聴くことでデッドの全体像がつかめるのだと言っています。ライヴとスタジオはデッドの両輪ということなのですが、デッドが名声を確立するのは何といってもライヴですから、スタジオ作はどうしても分が悪いです。

 本作品にはいい曲も含まれており、初めてのセルフ・プロデュースは成功していると思いますけれども、たとえばボートラ収録のライヴの方が面白く感じられてしまいます。ここは初期デッドの思春期とでも捉えておけばよいのかもしれませんね。

 ところで裏ジャケの写真にはあのコートニー・ラブの5歳の頃の姿が写っていると噂されていました。ラヴのお父さんがデッドに近かったのだそうです。ただし後に噂はビル・クルーツマンに否定されてしまいました。とてもいい話だったのに残念なことです。

Aoxomoxoa / Grateful Dead (1969 Warner Bros.)

*2011年11月3日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. St. Stephen
02. Dupree's Diamond Blues
03. Rosemary
04. Doin' That Rag
05. Mountains Of The Moon
06. China Cat Sunflower
07. What's Become Of The Baby
08. Cosmic Charlie
(bonus)
09. Clementine Jam
10. Nobody's Spoonful Jam
11. The Eleven Jam
12. Cosmic Charlie (live)

Personnel:
Phil Lesh : bass, vocal
Bob Weir : guitar, vocal
Jerry Garcia : guitar, vocal
Mickey Hart : percussion
Bill Kreutzmann : percussion
Tom Constanten : keyboards
Ron McKernan : organ, percuttion
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John Dawson, David Nelson, Peter Grant, Wendy, Debbie & Mouse