ロキシー・ミュージックは約3年の沈黙を経て再結成されました。高校時代にロキシーに恋焦がれていた私にとって、このニュースは本当に衝撃的でした。さらに来日すると知った時にはまさに欣喜雀躍、小躍りして喜んだものです。いそいそと武道館に足を運びました。

 本作品はロキシー再結成第一弾にして来日公演の手土産となったアルバム「マニフェスト」です。来日公演はこのタイトル曲から始まりました。ダンディーの権化だったブライアン・フェリーは赤いジャケットに細身の黒ネクタイという姿で颯爽と登場したのでした。

 メンバーはフェリーに、フィル・マンザネラ、アンディ・マッケイのフロント3人に加えてポール・トンプソンという四人組でした。エディー・ジョブソンはUKでの活躍が忙しく参加せず、結局、ベースとキーボードはアルバムもツアーもゲストが参加するという構成です。

 再結成の理由はフェリーのソロ・アルバムがあまり売れなかったからとも言われています。解散の理由はフェリーのソロが売れたからと言われていました。何が何やら分かりませんが、フロントの三人はそれぞれにソロ活動をしており、それが煮詰まったのかもしれませんね。

 復帰第一作となる本作品は、いつもの美女ではなくマネキンを使うという意表をついたお洒落なジャケットに包まれ、否が応でも期待が高まりました。冒頭のタイトル曲はいかにもロキシーらしい曲でしたし、感涙にむせんだものですが、違和感を感じたのも事実です。

 ロキシーの魅力は変な人たちであるというところにありました。それぞれの佇まいも変ですし、サウンドもどこか尋常じゃありません。それが本作品では普通に完成度が高い、しゅっとした曲が並んでいます。この洗練に向かうベクトルはどんどん強まっていくことになります。

 これは1980年代のロックの一つの頂点を極めるフェリーの美意識がいよいよストレートに発揮され始めたともいえます。それまでのロキシーを見る目を少々改めて向き合う必要が出てきました。ちょっと寂しいのですが、それが時の流れというものです。

 一方、バンドは解体に向かい始めます。注目したいのは「ダンス・アウェイ」です。シングル・カットされて全英2位のヒットとなったこの曲は、フェリーが一人でリズム・ボックスをいじっていたら「簡単にできてしまった」のでした。実際、この曲はもともとフェリーのソロ用の曲でした。

 再結成した途端にバンドである必然性に疑問を抱かせた曲だということです。再結成したと同時にバンドが解体に向かう芽が出てきました。一方、本作品にはマンザネラとマッケイの曲がこれまで以上に使われています。そのあたりの微妙な空気が本作品を面白くしています。

 私にとっては複雑な思いを胸に聴くアルバムです。一服の清涼剤は「マイ・リトル・ガール」ですね。マンザネラ作の可愛らしい曲で、マッケイのサックスがとても魅力的です。あくまでロキシー・ミュージックにこだわりたい私のあがきかもしれません。

 ところで、最初のシングル曲「トラッシュ」に♪プラザへ行こう♪とありますが、「プラザ」は本作品を含め、ロキシーのビジュアルを担当していたアントニー・プライスのお店のことです。プライスのアート・センスは本作品のみならずロキシー・ミュージック全体を規定していました。

Manifesto / Roxy Music (1979 Polydor)

*2013年3月26日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Manifesto
02. Trash
03. Angel Eyes
04. Still Falls The Rain
05. Stronger Through The Years
06. Ain't That So
07. My Little Girl
08. Dance Away
09. Cry, Cry, Cry
10. Spin Me Round

Personnel:
Bryan Ferry : vocal, keyboards, harmonica
Andy Mackay : oboe, sax
Phil Manzanera : guitar
Paul Thompson : drums
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Alan Spenner : bass
Gary Tibbs : bass
Paul Carrack : keyboards