ユーリズミックスの大出世作「スウィート・ドリームス」です。アルバムからカットされた同名曲は君臨していたポリスの「見つめていたい」を逆転して見事に全米1位の大ヒットを記録しました。もちろん英国でも大ヒットし、ここからユーリズミックスの快進撃が始まりました。

 ヒットの要因に傑作MVの存在がありました。時はMTVが最も輝いていた頃です。今に至るも語り草になる見事なMVでした。一般には、ボーカルのアニー・レノックスの男装が衝撃的だったとされています。後のレノックスの活動を思えばそこがポイントで間違いないでしょう。

 しかし、宝塚文化圏で育った私などはそこが物議を醸したということ自体が驚きです。確かに映画「愛の嵐」を一瞬思いましたけれども。私の最大の驚きポイントは何と言っても牛でした。なぜに牛?もう一つあげるとすると、二人の座禅姿でしょうか。

 楽曲も当然魅力的でした。デイヴ・スチュワートの作り出すシンセ・サウンドに、ソウルフルなレノックスのボーカルが乗るスタイルは新鮮でした。このスタイルが第二次ブリティッシュ・インヴェイジョンと呼ばれる英国のバンドの米国侵略の決め手になったのでした。

 本作品はユーリズミックスの二人が銀行から借金をして作り上げた自身の小さなスタジオで制作されました。エイト・トラックのテープ・レコーダーだったといいますから、とても本格的なスタジオとはいえません。当時はコンピューターもまだプリミティブな時代です。

 ユーリズミックスはデビュー作をクラウトロックの重鎮コニー・プランクのプロデュースで制作しています。商業的には惨敗でしたが、デュオにとってはプランクとの作業は大いに刺激になったことでしょう。自ら小さなスタジオでとにかくやってみることにしたのはその証左です。

 このスタジオからの最初の成果がシングル「ディス・イズ・ザ・ハウス」でした。続けて「ザ・ウォーク」、「ラヴ・イズ・ア・ストレンジャー」と発表しますが、いずれも注目を集めるには至りません。そしてとうとう「スウィート・ドリームス」の大ブレイクがやってきました。

 「スウィート・ドリームス」の大ヒットの力は大きく、「ラヴ・イズ・ア・ストレンジャー」は再発されて、ヒットを記録するに至りました。世間の注目を集めるまでが大変だったということを如実に表しています。その意味ではあのMVの力はとても大きいものがあります。

 また、本作品にはゲストとしてスクリッティ・ポリッティのグリーン・ガートサイドが一曲だけ参加しています。R&Bのスター、サム&デイヴの名曲「ラップ・イット・アップ」をレノックスとデュエットしています。この選曲、このボーカルが本作品の成功の秘訣を最もよく表しています。

 本作品のサウンドはいかにも小さなスタジオらしく、デモ録音と言われてもおかしくない佇まいです。プランクのようなスタジオ技術もなさそうですし、まずシンセの音色もいわば単色です。それでも二人のセンスでここまで人口に膾炙するアルバムになるのですから凄いです。

 現在ではこうした豪華でない小さなホームスタジオで音楽を制作するのは当たり前ですけれども、この頃にはプログレの一部を除けばほとんど見当たりませんでした。本作品はこうした小さなスタジオを使ってやりたいことをやる動きの鏑矢となったのでした。

Sweet Dreams (Are Made of This) / Eurythmics (1983 RCA)



Tracks:
01. Love Is A Stranger
02. I've Got An Angel
03. Wrap It Up
04. I Could Give You (A Mirror)
05. The Walk
06. Sweet Dreams (Are Made Of This)
07. Jennifer
08. This Is The House
09. Somebody Told Me
10. This City Never Sleeps

Personnel:
Annie Lennox
David A. Stewart
***
Adam Williams
Robert Crash
Green Gartside