オリジナルの特殊仕様を再現した紙ジャケ再発は大いに話題になりました。こんなジャケットは見たことありませんでした。テイチクの丁寧な仕事に素直に感謝したいです。一方、添付された河添剛氏の「and」へのこだわり満載の解説は論議を呼びました。

 「つまるところ『ズィンク・アロイ…』での”and”への固執は、濃密性や有機性の神話との訣別であり、進んで四散の側へ、希薄さの側へと身を転ずる営み、グラム・ロックが要請してやまないところの本質を欠く装飾そのものへの傾斜に他ならない」。

 論評は避けたいところですね。とまあこんなライナーとともに再発された本作品「ズィンク・アロイと朝焼けの仮面ライダー」はTレックスの9枚目のオリジナル・アルバムです。ここでは初めて「マーク・ボラン&Tレックス」へと表記が変わりました。「&」です。

 さらにプロデューサーとしてトニ・ヴィスコンティに加えてマーク・ボランの名前が加わりました。またまた「&」です。ヴィスコンティとボランは本作品の制作にあたって意見がかなり対立した様子で、結局二人の共同作業は本作品が最後になってしまいました。

 面妖なタイトルですけれども、原題ではさらに「または8月のクリーム色した牢獄」と続きます。残念ながら「&」ではなく「or」です。特殊ジャケットはこのクリーム色の牢獄を表現しています。ティラノ時代初期の長文タイトルが復活したわけです。

 原題は仮面ライダーではなく単にライダーです。しかし、ボランは来日した際に仮面ライダーにいたく興味をもったと伝わっています。ズィンク・アロイ、訳せば亜鉛合金という妙な名前の主人公になりきったコンセプト作である本作は仮面ライダーに着想したようなのです。

 アルバムを聴いてもコンセプトは今一つ明らかではありません。しかし、日本盤には各楽曲に渾身の邦題がつけられており、それっぽい雰囲気に拍車をかけています。たとえば「サウンド・ピット」は「悪魔のしもべはのろまが嫌い」とされました。

 発表当時はこのタイトルがデヴィッド・ボウイの「ジギー・スターダスト」の二番煎じだと大そう評判が悪かったそうです。ティラノ時代のようなファンタジーっぽい世界ですから、ボウイとはずいぶん違うと思いますけれども、この頃のボランは何かと批判される存在だったのです。

 サウンドは一聴して明らかなごとく、かなりソウル、R&B調になりました。さらにいつになくギターが激しくかき鳴らされたり、印象的なベースのリフがあったり、ロッカバラード風の曲もあり、不思議なリズム・セクションも大活躍です。バンドも大幅に人数が増えました。

 私生活ではパートナーが初期アルバムのコンセプトに功があったジューン・チャイルドから、本作でバック・シンガーを務めているグロリア・ジョーンズに変わりました。彼女を中心とするコズミック・クワイヤーがフロー&エディーに代わって本作品を彩っています。

 キャッチーな「ヴィーナスの美少年」を始めとしてなかなかの力作です。Tレクスタシーは過ぎ去り、米国では発売すらされなかった作品ですが、田舎少年だった私は本作品を買った友人の家にお邪魔して、「すごいなあ」と胸を躍らせていました。思い出深い作品です。

Zinc Alloy And The Hidden Riders Of Tomorrow Or A Creamed Cage In August / Marc Bolan & T. Rex (1974 EMI)

*2011年10月11日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Venus Loon ヴィーナスの美少年
02. Sound Pit 悪魔のしもべはのろまが嫌い
03. Explosive Mouth 熱く激しく爆発する唇
04. Galaxy 銀河の国へ
05. Change 変革はお陽さまの如く
06. Nameless Wildness 名もなき狂人
07. Teenage Dream
08. Liquid Gang いやな液体
09. Carsmile Smith & The Old One 懐かしのカースマイル
10. You Got To Jive To stay Alive - Spanish Midnight ジャイヴで行こう/燃えるスペインの今宵
11. Interstellar Soul 星空のソウル
12. Painless Persuasion V The Meathawk Immaculate 破滅への希望
13. The Avengers (Superbad) 俺たちの復讐者(ひどいもの)
14. The Leopards Featuring Gardenia The Mighty Slug 豹の歌/主演:くちなしの花となめくじ野郎
(bonus)
15. Truck On
16. Sitting Here

Personnel:
Marc Bolan : vocal, guitar
Micky Finn : percussion
Steve Currie : bass
Bill Legend : drums
Jack Green : guitar
Paul Fenton : drums
Lonnie Jordan : keyboards
Danny Thompson : bass
B.J. Cole : steel guitar
The Cosmic Choir (Sister Pat Hall, The Gloria Jones, Big Richard) : chorus
Toni Visconti : string arrangement