まずはジャケットが秀逸です。普通はないような構図のぼやけた写真にオレンジ色の色調を施すことによって見事にサウンドを表現しています。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの名作「ラヴレス」やキュアーの「フェイス」などに通じる感性です。

 この作品は英国のバンド、スロウダイヴのデビュー・アルバム「ジャスト・フォー・ア・デイ」です。アルバムは英国ではそこそこのヒットとなり、特にインディーズ・チャートでは1位に輝いています。私にはサウンドよりもジャケットの印象が強かったですが。

 スロウダイヴはシューゲイザーの代表的なバンドとして知られています。シューゲイザーなる呼称は大変よく出来ています。別の言い方でドリームポップという名称もありますけれども、そちらは私はどうしてもドリームガールに引きずられてモータウンを思い出してしまいます。

 シューゲイジングはバンドが演奏している時に観客の方を見るのではなく、足元ばかりを見つめているという揶揄のこもった言葉が発端となっています。観客にうるさいくらいアピールする典型的なロック・スタイルとは異なり、自らの殻にこもったようなステージングです。

 サウンドはゆったりしたリズムに分厚い音のカーテンがかぶさっているようで、ボーカルもウィスパー気味で歌詞ははっきり聴きとれません。まさに夢の中でなっているようなサウンドですからドリームポップという呼称も実はぴったりしています。

 スロウダイヴは6歳の頃からお友達だというレイチェル・ゴスウェルとニール・ハルステッドの二人が中心になって結成されており、本作品ではベースのニック・チャップリン、ドラムのサイモン・スコット、ギターのクリスチャン・セイヴァルを含めた5人組でした。

 ゴスウェルとハルステッドは二人ともボーカルとギターを担当して、結果としてギターが三人いるバンドです。キーボードのクレジットはありませんから、分厚いサウンドのカーテンは基本的にギターで出来ていることが分かります。フィードバックなどを多用しているわけです。

 この編成でこれぞまさにシューゲイジングというサウンドを展開しています。系譜的にはザ・キュアーやスージー&ザ・バンシーズ、コクトー・トゥインズなどに近く、シューゲイジングとしてはマイ・ブラッディ・ヴァレンタインなどと並びます。

 そうしたサウンドですから、かつてのプログレッシブ・ロック、たとえばピンク・フロイドなどとも通じるものがあります。感覚的にはもちろん同時代的なのですが、パンク以降の高速リズムとは一線を画すゆったりとしたリズムが大変心地よいです。

 アルバムは全9曲が最初から最後まで見事に一貫しています。エコーの森の奥深くで天から響いてくるようなボーカルがはかないメロディーを歌います。ギターも速弾きソロなどは一切なく、ドローンのようなサウンドを作り出しています。

 エフェクターを多用するために足元を見つめているのがシューゲイジングの真相ですけれども、人付き合いの苦手な若者たちをやさしく包んで別世界に誘うようなサウンドは格別です。コミュニケーションを拒否するようでいて、深いところで通じあう、そんな音楽です。

Just for a Day / Slowdive (1991 Creation)



Tracks:
01. Spanish Air
02. Celia's Dream
03. Catch The Breeze
04. Balld Of Sister Sue
05. Erik's Song
06. Waves
07. Brighter
08. The Sadman
09. Primal

Personnel:
Rachel Goswell : vocal, guitar
Neil Halstead : vocal, guitar
Christian Savill : guitar
Nick Chaplin : bass
Simon Scott : drums