デヴィッド・シルヴィアンのレイン・トゥリー・クロウに続くコラボレーション相手はロバート・フリップでした。すでにソロで共演済の二人がコラボするきっかけは、フリップからシルヴィアンにキング・クリムゾンのボーカルに迎えたいと電話してきたことでした。

 このコラボはまずツアーから始まり、続いてスタジオ・アルバムが制作されるという通常とは逆のパターンになりました。そうして完成したアルバムが本作品「ファースト・デイ」です。ただ、私はそんなことより、ジャケットのフリップとシルヴィアンの常ならざる姿に驚きました。

 サウンドは、一聴してかなりロック・テイストが強いことが分かります。これは二人にとってはカタルシスをもたらしたアルバムなんだそうです。シルヴィアンはレイン・トゥリー・クロウでメンバーとの関係に禍根を残していますし、レーベルとの確執は二人とも抱えていました。

 そんなフラストレーションを吐き出したようなアルバムです。シルヴィアンのソロ作品としてはかなり異質で、むしろキング・クリムゾンの系譜に置くとしっくりくるヘビーなロック・サウンドです。シルヴィアンのボーカルには大きな音に負けないような処理がされています。

 メンバーはシルヴィアンとフリップに加えて、後にクリムゾン入りするチャップマン・スティック奏者トレイ・ガン、ピーター・ガブリエルとの共演などで知られるドラマー、ジェリー・マロッタが主なところで、プロデューサーのデヴィッド・ボットリルもさまざまに係わっています。

 このうち、シルヴィアンとマロッタは全く折り合いが悪く、制作途上でマロッタはいなくなってしまいます。そのため、ドラムにはマロッタの音のループが多用されています。パーカッションにはマーク・アンダーソンの名前もありますが、あまりバンド的ではありませんね。

 シルヴィアンとフリップの仕事の仕方はずいぶん異なっていたそうで、ライヴから音を切り取るフリップは演奏するとさっさと退場、シルヴィアンが一人しこしことスタジオ作業を続けるようになりました。フリップは戻ってきては進捗を確認していたそうですが。

 そんなこともあって、シルヴィアンは決してこのアルバムに満足しているわけではない模様です。コラボレーションそのものをあまりよく言っていません。とはいえ、二人のアーティストが人生を乗り越えていくにあたって必要な作業だったことは認めています。

 素敵なバラードもできたらしいのですが、ここには収録せずに次回作にまわそうと思ったなどと発言もしており、このアルバムをはけ口的な扱いにしたかったということなのでしょう。その狙いは成功しており、聴き手としてもループするリズムにカタルシスを感じます。

 このアルバムを制作している頃、シルヴィアンはついにフジイさんと別れ、プリンスに見いだされた歌手のイングリッド・チャベスと結婚してアメリカに移住しています。心機一転出直すためには、これまでためてきたものを一度吐き出す必要があります。そのための作品です。

 シルヴィアンのソロの流れからみると異端児ですけれども、あり得たかもしれないシルヴィアンをリード・ボーカルに迎えた編成のキング・クリムゾンを堪能できる快作です。ボットリルのサウンド処理のセンスも断然光っていますし、なかなかどうして傑作なのでした。

The First Day / David Sylvian/Robert Fripp (1993 Virgin)

*2015年10月16日の記事を書き直しました。

参照:"On The Periphery" Christopher Young



Tracks:
01. God's Monkey
02. Jean The Birdman
03. Firepower
04. Brightness Falls
05. 20th Century Dreaming
06. Darshan
07. Bringing Down The Light

Personnel:
David Sylvian : guitar, keyboard, tape, vocal
Robert Fripp : guitar, Frippertronics
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Trey Gunn : stick, vocal
David Bottrill : treatments, sampled percussion, programming
Jerry Maotta : drums, percussion
Marc Anderson : percussion
Ingrid Chavez : vocal