ジャパンの4枚目は大きな飛躍を遂げたアルバムです。私は発売直後に入手してから今に至るも、ずるずるとこの「孤独な影」を聴き続けてきました。熱心なジャパンのファンという認識はありませんでしたが、いつの間にか最も敬愛するアーティストの一つとなっていました。

 前作も商業的にはぱっとしなかったことから、ジャパンはレーベルとの契約を切られました。新たなレーベル契約は難航しますが、日本では大人気のジャパンですから、所属していたビクターの尽力もあって、無事にヴァージン・レコードへの移籍が決まりました。

 新たなレーベルで心機一転、前作での手ごたえを感じていたジャパンは再びジョン・パンターをプロデューサーに迎えて本作品を制作しました。それが「孤独の影」です。邦題はかなり隙がある気もしますが、そのまま訳してもタイトルにならない原題相手によく頑張りました。

 このアルバムはとにかく素晴らしいです。衆目の一致するところ、際立っているのはスティーヴ・ジャンセンの骨太ながっしりしたドラムです。このドラムが背骨になって、リード・ギターのようなミック・カーンの手数の多い超絶ベースが渋くかつ派手に響きます。

 そしてその骨格の上に、リチャード・バルビエリのテクノなキーボード群がミニマルなリズムで隙間を埋めていきます。この三者が醸し出すリズムがとにかく耳を奪います。中村とうよう氏はこれをリズム・サウンドと呼んで、そのヒントになった音楽を挙げています。

 それによれば、第一にジョルジオ・モロダー、第二にミニマル・ミュージック、第三にダブ、そして第四にアフリカ音楽です。あくまで中村の分析ですけれども、確かにこの「ビートの複雑なニュアンスの豊かさ」の背後にはそうしたさまざまな音楽が隠れていそうです。

 デヴィッド・シルヴィアンのボーカルもまた素晴らしいです。重く沈み込むようでいて鋼のような強靭さを兼ね備えており、とにかく引きずり込まれてしまいます。このリズム・サウンドにこのボーカル、完璧なサウンド・クリエイションであるといえましょう。

 ロブ・ディーンのギターは活躍する場面が極端に少なくなっています。まるでギター・バンドだった初期のサウンドからは大きく異なります。結成当時は唯一の本格的なミュージシャンだったディーンでしたが、結局、本作の制作途中で脱退してしまいました。

 今回のカバー曲はマーヴィン・ゲイのヒット曲「エイント・ザット・ペキュリアー」です。アルバムの他の曲と並んで全く違和感がありません。「スウィング」や「孤独な影」などの名曲と色合いが統一されており、豊かなビートはモータウン曲でもその魅力を発揮しています。

 不気味にアンビエントな「バーニング・ブリッジズ」、またまたサティ風の「ナイトポーター」、そして私の一押し「メソッズ・オブ・ダンス」と捨て曲など一曲もありません。そして最後の曲は坂本龍一とシルヴィアンの共作「テイキング・アリランズ・イン・アフリカ」でミニマルに決めます。

 カーンのサックスも完璧に配置されており、とにかくため息が出るほど完璧なアルバムだと私は思います。私にとってはジャパンと本格的に出会ったアルバムでもあり、彼らの最高傑作だと断言しておきたいと思います。オリコンでは前作にかなわなかったのが残念です。

Gentlemen Take Polaroids / Japan (1980 Virgin)

*2011年6月5日の記事を書き直しました。

参照:ミュージック・マガジン1981年1月号



Tracks:
02. Gentlemen Take Polaroids 孤独な影
02. Swing
03. Burning Bridges
04. My New Career
05. Methods Of Dance
06. Ain't That Peculiar
07. Nightporter
08. Taking Islands In Africa
09. The Experience Of Swimming
10. The Width Of A Room
(bonus)
11. Taking Islands In Africa (Steve Nye remix)

Personnel:
David Sylvian : vocal, guitar, synthesizer
Mick Karn : bass, sax, oboe
Steve Jansen : drums, percussion, synthesizer
Rob Dean : guitar, e-bow
Richard Barbieri : keyboards, synthesizers
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Simon House : violin
Barry Guy : bass
Andrew Cauthery : oboe
Cyo : vocal
坂本龍一 : synthesizers