ビョークの5年ぶりとなる10枚目のスタジオ・アルバム「フォソーラ」です。またまたジャケットが恐ろしいことになっています。今回はどうやらキノコがテーマのようです。つきあいの長いM/Mパリスによるデジタル・キノコがジャケットにもブックレットにもあふれています。

 そもそもアルバム・タイトルがラテン語に一工夫加えて「掘る女性」です。「ヴァルニキュラ」で悲嘆のどん底に沈み、「ユートピア」で空に舞い上がってしまったビョークはこの作品で地上に降りてきました。そこで土の中にもぐり、どこにでも顔を出すキノコが出てくるわけです。

 これが樹木の根っことなるとストイックになりますが、キノコはサイケデリックだとビョークは説明します。このビジュアル・イメージを見ると素直に納得します。解像度をどんなに上げてもなおディテールが隠れていそうな恐るべきビジュアルはサイケデリックそのものです。

 アルバムはいつものビョークです。いつもと同じだと言うわけではありません。いつもと同じく聴いたことがない音楽が奏でられているという意味です。ビョークの作品は常に驚きに満ちており、先がまるで予想できません。そこは今回も変わりませんでした。凄いものです。

 本作品はCOVID19による行動制限下で制作が進められました。世界中を飛び回っているビョークは、この行動制限によって、結果的に故郷アイスランドに腰を落ち着けることになりました。このことがアルバムづくりにも大きく反映されています。まさに故郷の大地です。

 前作ではフルートが大きな役割を果たしていました。今回、その役割を果たすのはクラリネットのはずでした。実際、6人編成のクラリネット部隊が1曲目から活躍しています。分厚く重なるクラリネットの音色は大そう不思議な響きを連れてきます。

 しかし、ビョークは途中でクラリネット・アルバムとすることを放棄し、これを「アイスランド・アルバム」とすることにしたのだそうです。アルバム中にはアイスランドのフォーク・ソングを使った曲もありますし、何よりも彼女の母に捧げた曲があることが大きいです。

 ビョークの母親は晩年に至って病気を繰返し、2018年に亡くなりました。病気の最中で書かれた曲「ソロウフル・ソイル」、亡くなった後に書かれた「アンセストレス」は彼女に捧げられています。前者は息子、後者は娘さんとのデュエットとされ、パーソナル感が増しています。

 これらの曲のみならず、ビョークの本作品は生々しいビョークのボーカルを中心に極上のサウンドが重なっていくスタイルです。エンジニアとしてビョークをサポートするのベルガー・ソリリンとヘパ・カドリーの二人で、いずれも今や引っ張りだこの人気者です。

 他にはインドネシアのガバ・モーダス・オペランダイ、スペインのエル・グィンチョ、アイスランドのサイド・プロジェクト、アメリカのサーペントウィズフィートなどが貢献しています。いずれも初耳ですが、私はビョークから最新音楽事情を学ぶので、これは覚えておきましょう。

 いつものようにとても美しいサウンドであって、エンターテインメントというよりもシリアスな芸術音楽の範疇に近いサウンドです。ただし、曲の中には途中からテンポアップしてダンスで終わるものがあります。そこがまた素敵です。やはりビョークは無敵です。

Fossora / Björk (2022 One Little Independent)

参照:"Björk: Mother, Daughter, Force of Nature" Jazz Monroe (Pitchfork)



Tracks:
01. Atopos
02. Ovule
03. Mycelia
04. Sorrowful Soil
05. Ancestress
06. Fagurt Er í Fjörðum
07. Victimhood
08. Allow
09. Fungal City
10. Trölla-Gabba
11. Freefall
12. Fossora
13. Her Mother's House

Personnel:
Björk : vocal, production
***
Hamrahlíðarkórinn, Sindri Eldon, Emilie Nicolas, Ìsadóra Bjarkardóttir Barney : vocals
Gabber Modus Operandi, El Guincho, Side Project : beat
Soraya Nayyar : percussion
Baldvin Ingvar Tryggvason, Grimur Helgason, Helga Björg Arnardóttir, Hilma Kristín Sveinsdóttir, Kristín Þóra Pétursdóttir, Rúnar Óskarsson : clarinet
Matthías Birgír Nardeau : oboe
Bergur Þórisson : trombone
Þorgerður Ingólsfdóttir, Ragenheiður Ingunn Jóhannsdóttir : conductor
Una Sveinbjarnardóttir, Helga Þóra Björgvinsdóttir, Laura Liu, Ingrid Karlsdóttir, Geirþrúður Ása Guðjónsdóttir : violin
Þórunn Ósk Marinósdóttir, Lucja Koczot : viola
Sigurður Bjarki Gunnarsson, Júlia Mogenson : cello
Xun Yang : contrabass
Ferdinand Rauter : bassline MIDI
Áshildur Haraldsdóttir, Berglind María Tómasdóttir, Björg Brjánsdóttir, Dagný Marinósdóttir, Emilía Rós Sigfúsdóttir, Hafdis Vigfúsdóttir, Melkorka Ólafsdóttir, Pamela De Sensi, Sigríður Hjördís Indriðadóttir, Sólveig Magnúsdóttir, Steinunn Vala Pálsdóttir, Þuríður Jónsdóttir : flute
Matthías Birgír Nardeau : cor anglais