スタジオ・アルバムとしては2年ぶりとなるジェネシスのアルバム、その名も「ジェネシス」です。ベテラン・バンドのセルフ・タイトルとは意味深な感じがいたしますが、ジェネシスの場合はそんな気負いもなく、適当なタイトルが浮かばなかったからのようです。

 前作から2年の間には、ジェネシスとしての前作をサポートするツアーが行われて、ライヴ・アルバムが発表されました。また、フィル・コリンズ、トニー・バンクス、マイク・ラザフォードのそれぞれがソロ・アルバムを発表しています。余裕があります。

 さらに、ピーター・ガブリエルのWOMADフェスを支援するために、スティーヴ・ハケットまで加えた5人組ジェネシスとしてライヴを行っています。大ベテランのようですが、この時、三人はまだ30代前半です。昔はみんな若かったということです。

 本作品はジェネシスのホーム・スタジオ、ザ・ファームで制作されました。「アバカブ」を制作した当時はまだ完全ではなかったそうで、完成してからの作品としては本作品が第一号となります。ということで、今回はとことん自由気ままにアルバム作りに取り組みました。

 コンセプトとしては、先に曲を用意するのではなく、最初から最後までザ・ファームで一気に作り上げてしまおうということだった模様です。実際、ザ・ファームでジャム・セッションを繰り広げながら曲を作っていったそうです。そのため作曲者はすべて「ジェネシス」です。

 なるほどと思いますけれども、ちょっと待ってください。ジェネシスはアルバム制作は三人で行っています。それもリズムとフロントをそれぞれが兼任しています。ということは、せーのと一気に演奏することはできないわけです。面白いジャム・セッションです。

 作り方としては「デューク」に近いと思います。しかし、「デューク」の際には、自然体で演奏すると先祖がえりの様相を呈していましたけれども、本作品の場合は自然体のジャムから生まれた楽曲はもはやシンフォニック・プログレ時代からは遠くへ来ました。

 前作でエンジニアを務めていたヒュー・パジャムが共同プロデューサーに迎えられたことも大きいのでしょう。くっきりとしたサウンド自体がポップな響きをもっています。コリンズのボーカルに二人のコーラスが絡むさまなども大変開放的な雰囲気です。

 中村とうよう氏は「コリ過ぎない素直な曲を、フィルのヴォーカルも全員の演奏も、わざとらしさのない自然なプレイでジワーッと盛り上げる。小細工のない骨太な音楽だ」、「フィル・コリンズが中心になってからのジェネシスのレコードの中でもいちばんだと思う」としています。

 この作品の気持ちのよさをこれ以上に表現してくれている批評を私は知りません。ジェネシスの三人が正面から真面目に取り組んだハードかつポップなロック・アルバムです。やはりセルフ・タイトルはだてではありませんでした。しっかり大ヒットしていますし。

 本作からは英国では「ママ」、米国では「ザッツ・オール」のトップ10ヒットが生まれています。私は「ザッツ・オール」派です。アルバム自体も英国では1位、米国でも9位と大ヒットです。もはやジェネシスのアルバムの人気としてはこれくらい当たり前なのでした。

Genesis / Genesis (1983 Charisma)

参照:ミュージック・マガジン1984年3月号



Tracks:
01. Mama
02. That's All
03. Home By The Sea
04. Second Home By The Sea
05. Illegal Alien
06. Taking It All Too Hard
07. Just A Job To Do
08. Silver Rainbow
09. It's Gonna Get Better

Personnel:
Mike Rutherford : guitar, bass, chorus
Phil Collins : drums, vocal, percussion
Tony Banks : keyboards, chorus