そして三人が残ってから2年、ジェネシスの1980年代突入第一弾「デューク」はまずそのジャケットに驚かされました。これはフランスのイラストレーター、ライオネル・ケークレンの絵本「アルバートのアルファベット」から採られたイラストです。

 「金持ち父さん貧乏父さん」のような飄々としたイラストはこれまでのジェネシスのプログレ・イメージを完全に覆すものでした。音を聴く前に三人ジェネシスのポップ化がさらに進んだのだと思った人も多かったに違いありません。まあ私がそうだったわけです。

 しかし、前作からのシングル・ヒット曲「フォロー・ユー・フォロー・ミー」の路線を進むのではなく、実際にはむしろ以前のシンフォニックなプログレ路線の継続が目立ちます。その意味では、久しぶりに聴いてみてエイジアを思い出しました。こちらの方が先ですが。

 前作から本作品までの間に、トニー・バンクスとマイク・ラザフォードはそれぞれが初のソロ・アルバムを発表しています。フィル・コリンズはソロ・デビューこそ本作の翌年に持ち越されますが、ブランドXでのアルバム発表が続いていました。

 さらにコリンズは家庭の問題とやらでカナダに行ってしまったりしています。要するにジェネシスとしての活動が一時休止していたわけです。もちろん前作をサポートするツアーは行われましたので、丸々二年の休止というわけではありません。

 ようやく三人が本アルバム制作のために集結したのは1979年秋になってからで、そこから一気呵成にアルバムが作られていきます。録音はABBAのスタジオとして知られるストックホルムのポーラー・スタジオで行われました。演技のいいスタジオですね。

 これまでは事前に曲を揃えてスタジオ入りしていたジェネシスですが、活動休止に加え、バンクスとラザフォードがソロ・アルバム制作で曲が枯渇していたこともあり、メンバー三人が二三曲ずつ提供し、残りは三人のリハーサルの中で作られていきました。

 話を聞くと、時間がない中で急いで作った急造アルバムのようです。しかし、三人はその過程を後悔しているわけではなく、大いに楽しんだ模様です。これまでのジェネシスの歴史がこの状況に直面した彼らを通じて自然と曲になっていった様子がうかがえます。

 プロデューサーは馴染みのデヴィッド・ヘンツェルですし、何か新しいことをやろうという意気込みよりも、ごくごく自然にジェネシスのサウンドを形にしていこうという姿勢が結果として奏功したのだと思います。私たちもすんなりとジェネシスらしいサウンドを堪能したものです。

 一曲一曲は短いですけれども、それぞれが奥行きのある大きなサウンドとなっており、ポップではありながらもシンフォニックなプログレ色が感じられます。後のエイジアを思い出した所以です。これはアメリカでも受け入れられるプログレでしょう。

 実際、本作品はそれまでで最も商業的な成功を収めており、英国では1位、米国でも11位ともう少しでトップ10の大ヒットです。プログレ・サウンドをコンパクトかつポップにまとめる手腕は素晴らしいです。ジェネシスはこの作品を気に大人気ロック・バンドになっていきました。

Duke / Genesis (1980 Charisma)



Tracks:
01. Behind The Lines
02. Duchess
03. Guide Vocal
04. Man Of Our Times
05. Misunderstanding
06. Heathaze
07. Turn It On Again
08. Alone Tonight
09. Cul-de-sac
10. Please Don't Ask
11. Duke's Travels
12. Duke's End

Personnel:
Tony Banks : keyboards, chorus, guitar
Mike Rutherford : guitar, bass, chorus
Phil Collins : vocal, drums, drum machine, percussion
***
David Hentschel : chorus