ジャケットの裏には、水辺でのんびりしているハルモニアの三人の姿が写っています。そこにはカラフルなビーチパラソルが立っています。それがハルモニアのシンボルです。彼らはスタジオの中でもそのパラソルを立てて、その下で演奏していました。

 そのビーチパラソルに象徴される、太陽いっぱいの明るくて脳天気な音楽が流れてきます。ハルモニアの二枚目にして最後のアルバム「デラックス」です。邦題はその明るさとジャケットの太陽から導き出されたのでしょう、サイケデリックな「太陽賛歌」とされました。

 フォルストのプライベート・スタジオに再集結したミヒャエル・ローター、ハンス・ヨアキム・ローデリウス、ディーター・メビウスの三人はハルモニアとしてアルバムの制作にかかりました。前作と比べると本作品には三つの大きな特徴があるといえます。

 まず一つ目はボーカルが入ったことです。特にクラスターの二人にとっては長い長いキャリアの中で唯一の出来事です。二つ目はゲスト・ドラマーの参加です。クラウトロックの最重要バンドの一つであるグル・グルのマニ・ノイマイヤーその人です。

 三つめはパラソルを立てて演奏するようになったことです。それがどうしたと言われると返す言葉に窮しますが、このアルバムを覆う何とも言えないのんびりした空気にはそのことが大きく貢献していると思います。これまで以上に開放的なサウンドが流れています。

 冒頭の曲「デラックス」からボーカルが登場します。♪上へ下へ♪、♪前へ後ろへ♪なんていう簡潔にして深い歌詞が素晴らしいです。彼らがボイスではなくボーカルをとるとするとこうなるだろうなと大たい予想できるラインですが、それでもこの脱力加減は想像以上です。

 続く「ウィーキー・トーキー」は同じクラウトロックのカンを思わせる呪術的なリズムを背景にローターのギターが大活躍しています。3曲目の「モンツァ」はもうまるでノイ!のようなビート中心のアゲアゲの曲です。ただしノイマイヤーのドラムは幾分まろやかです。

 フリー・ジャズも経験してきたノイマイヤーの変態ドラムを加えた人力テクノの最高峰といってよい作品です。プログレ的なはったりは一切なく、気持ちの良い音が無造作に提示されていきます。こんなアルバムを制作するのは楽しかったことでしょう。

 中野泰博氏のライナーノーツによれば、「本作のぬるーいキモチ良さについて、メンバーが『録音している時、天気が良かったから』と発言していたそう」です。本作品の魅力を伝えるにはこれ以上ない説明です。「太陽賛歌」はあながち間違いではなかったわけです。

 残念なことに、ハルモニアのアルバムはこれが最後になりました。私は三人のバランスも素晴らしいと思っていたのですが、改めて聴いてみると、ローター色が強く出ていることがよく分かります。クラスターの系譜に置くよりも、ノイ!からローターのソロと並べると座りが良い。

 メビウスは「ハルモニアのファーストにはクラスターの感覚が色濃かったが、セカンドはよりミヒャエル・ローターだった。それでハルモニアをやめてクラスターに戻ったんだ」と述懐しています。クラスターはより音楽に構造を求めるローターと道を違える運命にあったのでした。

Deluxe / Harmonia (1975 Brain)

*2013年4月20日の記事を書き直しました。

参照:"Future Days" David Stubbs (Faber&Faber)



Tracks:
01. Deluxe (Immer Wieder)
02. Walky-Talky
03. Monza (Rauf Und Runter)
04. Notre Dame
05. Gollum
06. Kekse ビスケット

Personnel:
Michael Rother : guitar, keyboards, vocal
Hans-Joachim Roedelius : keyboards, vocal
Dieter Moebius : synthesizer, 大正琴, vocal
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Mani Neumeier : drums