ルー・リードの1970年代最後の作品「警鐘」は名作です。ここのところルーの怪しさというものが薄れてきた感じがありましたが、この作品はジャケットも含めてかなり怪しい。リアルタイムで聴いた時にも、あのルー・リードが戻ってきたと驚いたことを覚えています。

 何といってもドン・チェリーが参加していることが嬉しいです。当時、ジャズはほとんど聴いていなかったのですが、フリー・ジャズだけはとつとつと聴いていてい、ドン・チェリーは大好きだったのでした。ネネのお父さんだけにジャズの大御所ながらロックにも優しい人です。

 本作品ではルー・リードにしては珍しく、曲のほとんどが共作になています。曲作りの顔ぶれはブルース・スプリングスティーンのEストリート・バンドでお馴染みのニルス・ロフグレンやドン・チェリー、そしてバンドのメンバーです。これは新しい趣向といえるでしょう。

 A面はやたらと楽しい曲が並んでいます。「ディスコ・ミスティック」はディスコと題しているわりにはディスコっぽくありませんし、ルーのボーカルも沈んでいるのに、どこか怪しい高揚感があります。その他の曲も楽しいのにどこかちぐはぐな怪しさが満載です。

 B面はドン・チェリーが大活躍しています。夜通しパーティーを歌った「オール・スルー・ザ・ナイト」、世間にありがちな家族問題を綿々と歌う「ファミリーズ」、チェリーのトランペットがさえわたる「ベルズ」の三曲はいずれもチェリーの存在があってびしっとしまる曲です。

 「ベルズ」は、オーネット・コールマンの超名曲「ロンリー・ウーマン」のフレーズをチェリーが吹いたテープを聴きながら、エドガー・アラン・ポーの詩集を読んでいたルーが突然閃いて作った曲なのだということです。出来すぎたエピソードですが、感動的です。

 本当にいい作品です。ホーン・セクションが満載な上に、ギター・シンセの活躍で音がとにかく分厚いところが他の作品と一線を画しています。それでいて、キャッチーなフレーズが曲の根幹にありますし、バンドとしてのまとまりもあってロック魂にもあふれています。

 このアルバムではルー・リードのボーカルがさえています。この当時はへなちょこ感の強いへろへろな歌声ですが、それがひとつの高みに到達しているように思います。A面のキャッチーな曲群でも、「ウィズ・ユー」や「ルッキン・フォー・ラブ」など勢いがいいです。

 さらにB面に至ると凄味も増します。家族間の確執を綿々と訴えかける「ファミリーズ」のボーカルなどは鳥肌ものです。父親に向かって♪名前以外に何の共通点もない♪とか♪自分よりも犬の方が家族の一員だ♪と生々しいですが、ここはへろへろ声で魅力が倍増です。

 他人と共作することで、格段に曲の幅が広がりましたし、チェリーの参加を得て、サウンド面でも斬新な姿をみせています。ギター・シンセも新しい試みです。野心的な実験作でありながら、ポップでキャッチーと大成功だと思うのですが、レコード会社はプロモーションを怠りました。

 結果、さほど商業的には成功せず、ライブを見に来ていた社長にルーが「俺は生きていくための金が必要なんだ」とステージから訴えかけたと言われています。息の長い人気を誇るルー・リードですから、結果的には社長の方が損しているということになるのではないでしょうか。

The Bells / Lou Reed (1979 Arista)

*2011年1月23日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Stupid Man 愚者
02. Disco Mystic
03. I Want To Boogie With You
04. With You
05. Looking For Love
06. City Lights
07. All Through The Night
08. Families
09. The Bells 警鐘

Personnel:
Lou Reed : guitar, guitar synthesizer, bass guitar synthesizer
***
Michael Suchorsky : percussion
Michael Fonfara : keyboard, synthesizer, backing vocal
Ellard Boles : bass, backing vocal
Don Cherry : trumpet, African hunting guitar
Marty Fogel : sax, ocarina, Fender Rhodes