中森明菜が「スローモーション」でデビューしたのが1982年5月1日です。それからちょうど2年目となる1984年5月1日に発表されたアルバムが「アニバーサリー」です。ジャケットには発売日も記されており、「アニバーサリー」の意味合いを際立たせています。

 こうした記念日にはベスト・アルバムを出すのが普通のような気もしますが、そこはアーティスト志向の中森明菜です。ベスト・アルバムは半年前に出してしまい、ここはしっかりとオリジナル・アルバムで勝負してきました。結果は軽くチャートを制しました。絶好調です。

 本作品は前作とは異なり、4か月も前に先行して発表されていたシングル曲「北ウイング」を収録しています。しかし、本作品の3週間前に発表されていたシングル曲「サザン・ウィンド」は収録されていません。このあたり、試行錯誤が続きます。

 「北ウイング」は名曲です。成田空港の第一ターミナルに到着すると今でも無意識に♪ラヴ・イズ・ザ・ミステリー♪と口ずさんでしまうのが私の年代のあるあるです。「ザ・ベストテン」では5週連続1位となっており、中森明菜のさらなる飛躍につながった曲です。

 なお、オリコン・チャートではわらべの「もしも明日が・・・」に1位を阻まれましたけれども、何やら集計方法でわりをくったとか。まあこの当時は「ザ・ベストテン」の方が重要でしたから特に気にしていたわけではありません。もう社会人でしたけれども毎週見てました。

 さて、本作品は前作のロンドン録音に続いてまたまた海外録音で制作されました。今回は何とバハマのナッソーにあるかの有名なコンパス・ポイント・スタジオです。この頃はスタジオの全盛期で、ストーンズやU2、ロキシーなどそうそうたるアーティストが使っていました。

 本作品でもバスドラやベースの音などはいかにもこの頃のコンパス・ポイントらしいところがほのみえます。ただし、参加ミュージシャンはこれまた前作同様に日本のアーティストばかりで、しかも大人数ですから、東京のスタジオとうまく分担して制作されたのでしょう。

 作家陣は相変わらず多彩です。おなじみは来生姉弟と細野晴臣で、新顔は安全地帯の玉置浩二、「マイ・ピュア・レディ」の尾崎亜美、アイドル系に強い国安わたる、そして「およげ!たいやきくん」の作曲者である佐瀬寿一です。大幅な入れ替えです。

 これも新顔、「北ウイング」の林哲司・康珍化コンビは当時ヒットメーカーで知られており、中森明菜本人の指名で起用されたとのことです。期待に応えて、見事に中森の魅力である伸びのあるロングトーンを生かした楽曲を提供し、彼女の飛躍につながりました。

 もう一つの話題は中森明菜の作詞デビューです。「夢を見させて・・・」がそれで作曲者は謎のJスミスです。そして編曲は萩田光雄が1曲、それ以外は中島みゆきと縁の深い瀬尾一三と「バリエーション」に参加していた若草恵が担当しています。

 どすのきいた揺れるロングトーンでシャウト気味に歌うスタイルが昭和アイドル歌謡路線の枠をはみ出そうとしている。そんな佇まいのアルバムです。中森明菜をプロデュースするのはこの当時の歌謡界にはかなりのチャレンジだったことでしょう。

Anniversary / Akina Nakamori (1984 ワーナー・パイオニア)



Tracks:
01. アサイラム
02. まぶしい二人で
03. Easy
04. 夢を見させて・・・
05. 北ウイング
06. 100℃バカンス
07. 夏はざま
08. メランコリー・フェスタ
09. バレリーナ
10. シャット・アウト

Personnel:
中森明菜 : vocal
***
松原正樹、吉川忠英、矢島賢、谷康一 : guitar
岡沢章、富倉安生、金田一昌吾 : bass
渡嘉敷祐一、島村英二、宮崎全弘、林立夫 : drums
浜口茂外也、斉藤ノブ、木村誠 : percussion
山田秀俊、田代真紀子、富樫春生、森村献、倉田信雄、菅原祐紀 : keyboards
ジェイク・コンセプション、清水万紀夫 : sax
数原晋、小林正弘 : trumpet
数原晋 : Flugel horn
新井英治 : trombone
沖田晏弘、笠松長久 : horn
竹内グループ : mandolin
多グループ、JOEストリングス : strings
山川恵子 : harp
イヴ、山川恵津子、比山清、木戸恭弘、林哲司 : chorus