いよいよメタル・マシーン・ミュージックの順番がやってきました。この作品はLP2枚組で、全編これギターのフィードバック音、つまり雑音で構成されています。各面16分1秒づつ、しかも最後はエンドレスのループになっています。CD化でタイムが違っちゃったのが残念です。

 メロディーやリズム、もちろんボーカルもなし。延々と同じような音が続きます。ただ、CDでは最後のループの再現のところでリズムが現われてきてしまいます。それでも、基本はキンキンのマシン音ですから聴き通すには体力もいります。

 アーティストとしての自殺行為と評されたこともある一方で、ロックの到達点として熱狂的に支持されたこともある作品です。ルー・リード自身はこれを悪い冗談だとして謝罪したこともありますし、肯定的に語ったこともあります。毀誉褒貶相半ばする問題作です。

 いわば、ルー・リードの不思議ちゃんキャラの到達点です。自らとまわりが作り上げてきた、世間の常識を逸脱した、背徳、頽廃、孤高、漆黒の芸術家キャラクター。ルー・リードの「どや顔」が見える作品です。「えーい、どうじゃ!」といわんばかり。

 しかし、音楽というものは作り手だけのものではありません。聴き手との相互作用で生まれるものだという忘れがちな真実をこのアルバムほど思い出させてくれるものはありません。ルー・リードの個人史的な意味合いを全く離れたところで、この作品は大変面白いです。

 皆さんは聴き方をご存知ですか。瞑想の伴にしてもよいのですが、私としては、有名な現代音楽家小杉武久が、日本版LPのライナーに書かれていた聴き方をお勧めします。「窓から外に手を突き出して聴いてみる」「逆立ちしながら聴いてみる」。

 さらには、「下半身だけ裸で聴いてみる」「全裸で聴いてみる」などなど。LPを手に入れた当時はかろうじてまだ10代だった若い私は全部試してみました。下半身裸が一番よかった気がしますが、とにかくこの作品は何かこちらから歩み寄ると、面白く聴けます。

 しかし、私の一番の驚きはこの作品に似た音を発見したことでした。当時は波の音を録音した「サーフ・ブレイク」など自然音だけを収録した、いわゆる「環境レコード」が結構流行っていました。私も何枚かそんなアルバムを買って部屋で聴いていたものです。

 その一つに熱帯雨林のジャングルの夜を録音したものがありました。ジャングルの夜は決して静かではなくて、虫と鳥の鳴き声のウォール・オブ・サウンドです。何とその音がこの作品の音にそっくりなんです。機械と電気が極まると自然音となる。大いに感動したのでした。

 改めて通して聴いてみて、思ったことがあります。ギターのフィードバック音からなるノイズ・サウンドなのですが、確かにルー・リードの存在を感じるということです。聴いていると、演奏している、というか歩き回っているルーの姿が立ち現れてきます。

 エクストリーム・エレクトリック・サウンドのアーティストの作品群ほど洗練されていませんが、そこは先駆者としての意気込みが聴こえます。もう一つはサウンドがマイルドになったような気がすること。ひょっとして加齢とともに高い音が聴こえなくなっているせいでしょうか。

Metal Machine Music / Lou Reed (1975 RCA)

*2011年1月16日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Metal Machine Music A-1
02. Metal Machine Music A-2
03. Metal Machine Music A-3
04. Metal Machine Music A-4

Personnel:
Lou Reed