このアルバムが発表されてしばらくたった頃、英国のフィナンシャル・タイムズ紙にギブソン社のCEOに取材した興味深い記事を見かけました。一時は青息吐息だったギブソン社も当時は息を吹き返して、フェンダー社と並んで業績は好調そのものだというものです。

 21世紀は電子音楽全盛の時代かと思うとそんなことはなく、ギターの売上は2000年以降倍増しており、アコギの好調さもさることながら、エレキ・ギターはさらに絶好調だというのです。親父世代にも若者世代にも売れ行きは好調で、特に女性の伸びが大きかったそうです。

 2001年にラフ・トレードからデビューしたストロークスのためにあるような記事でした。ストロークスは新世紀のギター・バンドとして、二本のギター、ベース、ドラム、ボーカルというロックの王道、ストーンズ編成でガレージ・ロックの復活をもたらしたバンドです。

 おまけにギタリストの一人は「カリフォルニアの青い空」のアルバート・ハモンドのジュニアであるという親父世代にはたまらないエピソードを備えたバンドです。こうなると彼らの存在そのものがとても嬉しい。ロックは不滅だとこの頃には確かに言えたのでした。

 本作品は2006年発表の三作目「ファースト・インプレッション・オブ・アース」です。この頃はまだCDが元気でしたから、ジャケットも着せ替え式の豪華仕様ですし、ブックレットも全曲について曲ごとに見開きページにそれぞれのビジュアル・イメージと歌詞を掲載しています。

 ガレージ・ロックの復活を告げたデビュー作と二作目で大人気バンドにのし上がっていたストロークスですから、本作品にはレコード会社も含めて気合が入っていることが分かります。そのかいあって、米国では前作同様5位、英国では1位の成績を収めています。

 しかし、ファンの間では前二作から作風が変化したとして賛否両論が巻き起こりました。先行シングル「ジュースボックス」のハードな作風が、前作までのラフ&クールに比べ、作りこんだ印象なのでしょう。言われ方までガレージ・ロックの典型、こんなところもリバイバルです。

 スタジオ録音にも慣れてくるでしょうから、こうした変化は必然です。楽曲は比較的シンプルなままですし、ねばっこいジュリアン・カサブランカのボーカル、ハモンドとニック・ヴァレンシのきらきらとした素敵な音色のギターも健在、若さ溢れる魅力の基本は変っていません。

 「刻々と変化し、絡み合うギター・サウンド」、「多彩な表情を見せるベース・ライン」、「ソリッドかつタイトなドラム」、「広いレンジとパワーを獲得した」ボーカル、と公式サイトがうたう通り、それぞれの方向は変らないままにグレードアップしたのだと思います。

 スタイル面で革新的なところがあるわけではありませんが、それぞれのパートに聴きどころが多いとても気持ちの良いストレートなロック・サウンドです。コンピューターもいいですけれども、こうして体を動かすサウンドは不滅です。なんたって楽しそうです。

 気になるその後のギターの売上ですが、米国では2005年をピークにやや低迷していたものの、ここへきて持ち直しています。ギブソンは2018年に一旦倒産してしまいましたが、再生されました。果たしてギター・ロックも再度リバイバルするのでしょうか。
 
First Impressions Of Earth / The Strokes (2006 RCA)



Tracks:
01. You Only Live Once
02. Juicebox
03. Heart In A Cage
04. Razorblade
05. On The Other Side
06. Vision Of Division
07. Ask me Anything
08. Electricityscape
09. Killing Lies
10. Fear Of Sleep
11. 15 Minutes
12. Ize Of The World
13. Evening Sun
14. Red Light

Personnel:
Julian Casablancas : vocal, drums
Albert Hammond, Jr. : guitar
Nick Valensi : guitar, mellotron
Nikolai Fraiture : bass
Fabrizio Moretti : drums, percussion