プリンスの日本デビューとなった第二作目「愛のペガサス」です。原題はシンプルに「プリンス」、セルフ・タイトルですけれども、一般名詞を名前に持つまだ無名のアーティストのアルバムですから、日本ではさすがに「プリンス」ではまずいと思われたのでしょう。

 それにしても「愛のペガサス」とは。ペガサスにちなんだ曲があるわけではありません。どうやらプリンスという名前からの連想のようです。王子が白いペガサスにまたがってさっそうと現れたという典型的なイメージが邦題の由来なのでしょう。

 前作から1年半、比較的長いインターバルで発表された本作品もボーカルはもちろんのこと、全ての楽器を殿下が一人で演奏するという完全ソロ・アルバムです。しかも、前作で制作陣を納得させたのか、エグゼクティブ・プロデューサーの名前もありません。

 本作品は全米チャートで22位にまで上がるヒットになりましたし、シングル・カットされた「アイ・ウォナ・ビー・ユア・ラヴァー」はシングル・チャートで11位、R&Bチャートでは1位になる大ヒットを記録しました。一般にプリンスのブレイク作といわれる所以です。

 おまけに本作品中の「恋のフィーリング」は1984年にチャカ・カーンがカバーして英国で1位、米国で3位を記録する大ヒットとなり、グラミー賞にて最優秀女性R&Bボーカル賞、ベストR&B曲賞を受賞しています。ちなみに本作品からのシングル・カットはありません。

 ここまででも十分に凄い成績なわけですが、プリンスの後のスーパースターぶりに比べるととるに足らない成績のように思えてしまうところがとにかく凄いです。アルバム自体もプラチナ・アルバムなのに後のアルバムと比べられて地味な印象を受けてしまいます。

 しかし、もちろんこの作品自体も素晴らしいです。前作以上にバラエティーに富んだサウンドが展開しています。とりわけジミヘン的なギターがばりばりと活躍するハード・ロック風な「バンビ」や、むき出しのファンク・ビートにくらくらする「セクシー・ダンサー」などなど。

 この頃からプリンスの才能に気づく人は気づいていたんでしょうね。志村けんさんなどは、「フヒャー!何んだこの野郎はという感じである」と当時絶賛しています。「このレコードまさにレコードのヴァラエティ・ショウである」としてべた褒めです。

 「ただ難をいえば彼のファルセット・ヴォイスは人によって好き嫌いがあるだろう」とも指摘しているところが面白いです。プリンスが大スターとなるのは地声でも歌うようになってからです。さすがは志村けんさんです。見事な指摘でありました。

 本作品ではプリンスのボーカルはすべてファルセットです。アップ・テンポの曲はまだ普通に聴けますが、スロー・バラードの「愛を待ちながら」などそれはそれは挑発的で、いてもたってもいられない感じがします。それだけ彼のボーカルの力があるということなのでしょう。

 後の作品に比べるとまだ大人しいサウンドに聴こえてしまいますが、前作同様、これはこれで十分素晴らしいアルバムです。プリンスとマイケル・ジャクソンは一代年寄として独自のジャンルを形成しており、本作品もプリンス部屋の力士として十分な輝きを放っています。

Prince / Prince (1979 Warner Brothers)

参照:「レコードのヴァラエティ・ショウ」志村けん(Music Life Club)



Tracks:
01. I Wanna Be Your Lover
02. Why You Wanna Treat Me So Bad? つれない仕打ち
03. Sexy Dancer
04. When We're Dancing Close And Slow 寄りそうふたり
05. With You
06. Bambi
07. Still Waiting 愛を待ちながら
08. I Feel For You
09. It's Gonna Be Lonely

Personnel:
Prince : vocal, all instruments