ツトム・ヤマシタによるアイランド・レコードへの第三作目「フリーダム・イズ・フライトニング」です。本作品の発表は1973年のことですから、ヤマシタはまだ25,6歳です。渡米したのが16,17歳の時ですから、それからまだ10年足らずです。

 この間のヤマシタの活躍ぶりは凄まじいものがあります。国も日本、米国、英国にフランスと幅広いですし、ジャンル的にも現代音楽から、日本の伝統に着想したレッド・ブッダ・シアター、そしてカム・トゥ・ジ・エッジでのプログレッシブ・ロック展開と多岐にわたります。

 レッド・ブッダ・シアターなどは公演回数は500回を超えるといいますから凄いです。一体、いつ寝ていたのでしょうか。ともかく、この間のヤマシタの尋常でない働きぶりは超人の域に達しているといってよいでしょう。恐るべきアーティストです。

 ヤマシタは「マン・フロム・ジ・イースト」の成功を受けて、カム・トゥ・ジ・エッジに代わる新たなバンド、イースト・ウィンドを編成します。まず、ギターには前作の「メモリー・オブ・ヒロシマ」にて印象的なプレイを聴かせていたゲイリー・ボイルが選ばれました。

 ボイルはダスティー・スプリングフィールズのバンドなどにいたこともある英国のジャズ・フュージョン界で活躍するギタリストで、有名なジャズ・フュージョン・バンド、アイソトープの創設者でもあります。アイソトープの結成は本作品の発表と同じころのようです。

 そして、注目すべきはベースに起用されたのがヒュー・ホッパーであるという事実です。ホッパーは英国プログレッシブ・ロック、カンタベリー派の最重要バンド、ソフト・マシーンの屋台骨を支えてきたベーシストです。ちょうど本作品の頃がソフツ脱退の時期にあたります。

 ホッパーはメンバーの離合集散が激しいソフト・マシーンの中にあって、一時期はリーダー的存在でしたから、イースト・ウィンドをソフト・マシーンと名乗る手もあったような気さえしてしまいます。充実した作品ですから、ソフツの名で多くの人に届けてもよかったですね。

 さて、キーボードはヤマシタのバークリーの学友ブライアン・ガスコワンが担当しています。彼は「スター・ウォーズ」を含むジョン・ウィリアムスの一連の映画音楽でも演奏しているなど、映画音楽を中心に活動しているミュージシャンです。その作品リストをみるとめまいがします。

 めまいといえば、ジャケットを担当しているのがヒッチコック作品のタイトルデザインなどをてがけたソール・バスです。少し話がそれましたが、メンバーの最後は奥さんのヒサコ・ヤマシタ、バイオリン担当です。本作品最後の「ウィンド・ワーズ」での美しいプレイが素敵です。

 この5人のメンバーで制作された本作品は、大そう評判も良く、ヤマシタのキャリアをプログレッシブ・ロックの方向に大きく進めることとなりました。現代音楽的な要素が少し残っていたカム・トゥ・ジ・エッジに比べると、もはやプログレ道の真ん中を歩んでいます。

 ドラマチックな展開をみせるタイトル曲などはソフト・マシーンと並べてもあまり違和感はありません。和もの要素はほとんどありませんし、曲の構成から演奏からすべてがプログレ的な傑作となっています。この時代のプログレを象徴する一枚といっても過言ではありません。

Freedom Is Frightening / Stomu Yamash'ta's East Wind (1973 Island)



Tracks:
01. Freedom Is Frightening
02. Rolling Nuns
03. Pine On The Horizon
04. Wind Words

Personnel:
Stomu Yamashta : drums, percussion
Hisako Yamashta : violin
Hugh Hopper : bass
Gary Boyle : guitar
Brian Gascoigne : keyboards, synthesizer, vibraphone