1978年の満月の夜に解散したテレヴィジョンは1992年に再結成しました。1992年といえば前年にニルヴァーナが「ネヴァー・マインド」で大ブレイクし、アメリカにグランジの波が押し寄せていた時期です。アメリカにとってのグランジは、イギリスにとってのパンクです。

 その結果、アメリカのオリジナル・パンクスにも注目が集まっていましたから、ニューヨークのパンク・バンドであったテレヴィジョンが再結成を果たすには大変都合がよかったといえます。ようやく多くの人に聴いてもらうことができるかもしれないというわけです。

 テレヴィジョンのフロント・マン、トム・ヴァーラインはテレヴィジョン解散後再結成までに6枚ものソロ・アルバムを発表しており、ニューヨークのロック・シーンでそれなりに大きな存在感を示していました。テレヴィジョンの再結成もヴァーラインの胸先三寸だったのでしょう。

 それにもう一人のギタリスト、リチャード・ロイドもソロ・アルバムこそ隠れた名作「アルケミー」ともう一枚のみですけれども、セッション・ミュージシャンとして活躍していました。ドラマーのビリー・フィッカもベースのフレッド・スミスも音楽業界にとどまっていました。

 要するにメンバーは全員が解散後も音楽活動を続けていましたし、それぞれの活動に相互乗り入れもしていましたから、機が熟すれば再結成も当然のことだったように思われます。グランジの流行はその機を思う存分熟させたのでした。

 とはいえパンクに同窓会は似合いません。とりわけ隠花のごとく青白く輝いていたテレヴィジョンには再結成してもらいたくなかったと残念に思ったものです。いっそのことリチャード・ヘルも参加していれば面白かったのに、などと悪態をつきながら私は本作品をスルーしました。

 しかし、時は流れ、14年など誤差の範囲でしかなくなってしまいました。今や、本作品を虚心坦懐にテレヴィジョンの三作目のアルバムとして楽しむことができます。それにヴァーラインのソロやロイドのソロなどと並べてみれば穴のないディスコグラフィーともいえます。

 セルフ・タイトルが与えられた本作品で、テレヴィジョンは名作とされる過去2作品と大きく変化したわけではありませんが、冒頭の「1980・オア・ソー」のイントロがクリア・トーンのギターで始まると時の流れを感じざるをえません。録音技術が大きく進歩しています。

 かつてはもこっとしていたギターの音が見事にシャープです。それにヴァーラインのボーカルがまたクリアです。そうしてヴァージョン・アップされたサウンドがアルバム全編に展開していきます。さすがはテレヴィジョンです。世界観はそのままにサウンドは刷新されています。

 ヴァーラインのソロ・アルバムに雰囲気は少し似ていますけれども、やはりロイドとのギター・アンサンブルが素晴らしいです。ここはテレヴィジョンならでは。空間的な広がりをもったやるせないサウンドに胸が躍ります。もともとパンクよりもグランジなテレヴィジョンでした。

 本作品からは「コール・ミスター・リー」の怪しげなMVが話題になりました。初期の作品と変わらない世界が展開しており、テレヴィジョン・ファンとしては狂喜するところです。何十年の時を経て感動しました。なお、テレヴィジョンはこの後また10年ほど沈黙しました。

Television / Television (1992 Capitol)



Songs:
01. 1880 Or So
02. Shane, She Wrote This
03. In World
04. Call Mr. Lee
05. Rhyme
06. No Glamour For Will
07. Beauty Trip
08. The Rocket
09. This Tune
10. Mars

Personnel:
Tom Verlaine : vocal, guitar
Richard Lloyd : guitar
Fred Smith : bass, vocal, guitar
Billy Ficca : drums