1999年9月9日の9時9分、作業中に機材が大爆発してその被害を受けたダフト・パンクの二人は「超一流の外科医とハリウッドの技術者たち」によってロボットに作り変えられました。以降、二人の素顔はロボットです。別の惑星から来たわけではなかったんですね。

 そんな大事件にもめげず、ダフト・パンクは大傑作となる2作目「ディスカバリー」を完成させました。このアルバムは世界中で大ヒットしたのみならず、そのマルチメディア戦略とともに後進に甚大な影響を与えたのでした。時代を画する作品です。

 ダフト・パンクの二人は本作品を制作するにあたって、「宇宙戦艦ヤマト」の松本零士とのコラボレーションを実現させました。フランスでは日本アニメが数多く放映されており、二人にとって松本はまさに「夢の人」だったそうです。このコラボには心底驚きました。

 ジャケットは日本盤の特典です。コラボはもちろんこの絵にとどまるわけではなく、本作品の収録曲のMV制作が中心です。まず「ワン・モア・タイム」が制作されるとチームは意気投合し、最終的には全曲のMVが制作されて、それが映画として公開されるに至りました。

 松本零士も「昔の作品を通して20年以上前に世界にまかれた種が、今になってこうして実を結んでいる。このプロジェクトは、私のモニュメントなんです」と感慨深げです。松本といえば私にとっては「男おいどん」です。コミックを全巻揃えて愛読していました。私も感慨深い。

 さらにダフト・パンクの革新は続きます。本作品に封入された鍵を使ってインターネット上に構築されたダフト・パンク・ワールドにアクセスすることができます。今ならばメタバースと親和性が高い試みです。発想がやはり10年以上は先を行っています。

 そんなこんなで話題には事欠かないアルバムです。肝心のサウンドの方ももちろん大充実しています。先行シングルの「ワン・モア・タイム」でまずは度肝を抜かれました。松本のMVと不可分の楽曲は圧倒的なメジャー感に溢れておりました。

 「ホームワーク」は骨格をむき出しにしたサウンドだったのに対し、「ディスカバリー」は上物を充実させて、大変ゴージャスになりました。サンプリングもバリー・マニロウの歌声の一節を使うなど、楽曲全体がよりメロディアスに変化しています。ボーカル曲も増えました。

 印象的な「ワン・モア・タイム」のボーカルはロマンソニーなるアメリカのDJで、これが彼の代表作になりました。彼はもう一曲「自由をこの手に」でも歌っています。さらに「素顔で向き合えば」にはこれまたアメリカのプロデューサー、トッド・エドワーズをボーカルに据えています。

 近未来的な作品ですけれども、こうしたボーカルとともに意外にしっとりと柔らかいところもダフト・パンクの魅力です。そこには松本零士作品に通底する魅力があるように思います。松本を始めとする日本のアニメが彼らに与えた影響は深く深く埋め込まれているのでしょう。

 「子供の夢が叶った」、「こうして実際に最大のヒーローと一緒に仕事をしているというのは驚きとしか言いようがない」、「フランスと日本が手を組んでこのプロジェクトを世界にプレゼントできることに非常に興奮している」。作品を通じて心意気がしっかり伝わってきます。

Discovery / Daft Punk (2001 Virgin)



Songs:
01. One More Time
02. Aerodynamic
03. Digital Love
04. Harder, Better, Faster, Stronger 仕事は終わらない
05. Crescendolls
06. Nightvision
07. Superheroes
08. High Life
09. Something About Us 愛の絆
10. Voyager
11. Veridis Quo
12. Short Circuit
13. Face To Face 素顔で向き合えば
14. Too Long 自由をこの手に

Personnel:
Thomas Bangalter
Guy-Manuel de Homem-Christo
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Romanthony : vocal
Todd Edwards : vocal