「キリング・ムーン」は名曲です。当時、私は12インチ・シングルを購入して楽しんでおりました。イアン・マッカロクのボーカルも、ウィル・サージェントのギターも冴えわたっています。♪狂おしいほどに口づけをかわし♪なんていう歌詞も美しいです。

 そんな名曲を収めたエコー&ザ・バニーメンの4枚目のスタジオ・アルバム「オーシャン・レイン」は当然人気は高いのですが、前作とはまたかなり雰囲気が異なっており、いろいろと評価の分かれる作品です。一筋縄ではいかないエコバニです。

 今回は、フランスにわたって本格的にオーケストラと共演しています。前作のストリングスはシャンカルに委ねられていましたが、本作品ではバンドも積極的に係わっています。はっきりとオーケストラを使って何かコンセプチュアルなことをしたいとの意思がありました。

 ニュー・ウェイヴの時代は百花繚乱のごとくさまざまな音楽が生まれました。とにかく誰も聴いたことがない新しいものを作ろうという時代でしたから、アルバム毎にスタイルを変えるなりなんなりしないとすぐにマンネリのそしりをうけがちでした。ある意味、強迫観念です。

 ジャケットはこれまでと同じブライアン・グリフィンとマーティン・アトキンスのコンビによって制作されましたけれども、今回はちょっとどうかと思いました。実際に洞窟で撮影されていますが何とも人工的な感じがします。閉鎖的なイメージになってしまっているように感じました。

 私はこのジャケットのせいで本作品を買おうか買うまいか随分悩みました。「キリング・ムーン」だけでいいかなと。結局買いましたけれども、そうしたわだかまりは抜けないものです。ネオ・サイケからゴスにすり寄った感じもしましたし、オーケストラもどうかなと思いました。

 そんなわけで、こわごわ聴いてみたわけですが、久しぶりに聴くと結構耳に馴染むことに驚きました。そういえば当時もぶつぶつ言いながらも結構聴いていたことを思い出しました。愛憎相半ばするとはこういうことを言うのでしょう。

 エコー&ザ・バニーメンもキャリアを重ねて曲作りも達者になりました。何よりもマッカロクのボーカルも普通の尺度でうまくなり、今回はエコーの森の中から結構前に出てきています。サージェントのギターも自分のスタイルを確立したように思います。

 レス・パティンソンとピート・デ・フリータスのリズム・セクションは前からタイトなリズムを刻んでおりましたが、アコースティック色の強い本作品でもよりそのプレイが際立っています。ヒット曲も多く、全体に工夫が凝らされながらもアルバムとしてのまとまりが強固です。

 今回も帯の惹句は奮っています。「銀嶺の女神が奏でる氷の讃美歌。男たちは氷塊を打ち砕き、戦慄の航海に出発った」。この大仰な文句がよく似合います。幻想文学的な詩情を感じるアルバムとなっているからでしょう。彼らの狙いは過たず、見事に具現化されました。

 本作品は全英チャートでは4位と前作の2位には及びませんでしたが、十分な大ヒットです。さらに初めて米国でもトップ100入りしています。彼らのファンとしては米国で売れるようにはなってほしくないと思っていたので、ちょっと複雑な思いでした。

*2013年11月8日の記事を書き直しました。

Ocean Rain / Echo & the Bunnymen (1984 Korova)



Songs:
01. Silver
02. Nocturnal Me
03. Crystal Days
04. The Yo-Yo Man
05. Thorn Of Crowns
06. The Killing Moon
07. Seven Seas
08. My Kingdom
09. Ocean Rain
(bonus)
10. Angels And Devils
The Life At Brian's Sessions
11. All You Need Is Love
12. The Killing Moon
13. Stars Are Stars
14. Villiers Terrace
15. Silver

Personnel:
Ian McCulloch : vocal
Will Sergeant : guitar
Les Pattinson : bass
Pete de Freitas : drums
***
Adam Peters : orchestral arrangement, piano, cello