エコー&ザ・バニーメンの3作目「ポーキュパイン」は私にとっては待望のアルバムでした。またまたジャケットが素晴らしく、わくわくしながらLPを抱えて帰ったことを覚えています。帯の惹句も「凍てつくような音の洪水に銀嶺の女神は震えてしまう!」と気合が入っています。

 そして針を下ろした瞬間、世界がぱーっと開けるような素晴らしいサウンドが出てきて、腰を抜かしそうになりました。エコバニ初のトップ10ヒットとなった「ザ・カッター」のイントロはバグパイプかバイオリンか。これまでの彼らからは考えられない明るい音です。

 その明るさはジャケットにも表れています。前作同様ブライアン・グリフィン撮影、マーティン・アトキンスによるデザインですけれども、アイスランドで撮影された写真は冷え冷えとしていながらも、どこか突き抜けるような明るさを感じることができます。

 本作品では、インドのバイオリニスト、ラクシュミナラヤン・シャンカールの参加が目をひきます。そのサウンドが本作品を特徴づけています。そしてそのサウンドの録音がまた凄いです。エンジニアには6人もの名前がクレジットされています。録音も進化しているんです。

 中村とうよう氏は、本作品のサウンドを「赤と青がズレて印刷されている立体写真」にたとえ、「赤色の印刷はバニーメンの演奏で、それと奇妙な重なり方でインドのヴァイオリン奏者シャンカルのうすい青色が刷り込まれている」と評しました。

 これはまことに上手い表現だと思います。前作までの彼らのサウンドとは明らかに感触が異なっており、見事に立体的です。こういう録音がなされることによって、ギターやボーカルも明らかに粒だって聴こえるようになっています。何とも素晴らしい。

 しかし、当時のバンド内の状況は最悪だったようですし、一旦出来上がったアルバムもレコード会社によって、あまりにコマーシャルじゃないとして発売を拒否されてしまいます。そのため、追加でレコーディングを行い、ようやく発表にこぎつけたということです。

 その追加作業の中でシャンカルを起用ししてストリングスを全面的に加えることにしたのはマネージャーのビル・ドラモンドのようです。さすがはKLFですけれども、何だか複雑な話です。セックス・ピストルズのマルコム・マクラレンのような暗躍ぶりです。

 ということはバンドの意思ではなかったのかもしれません。実際、ウィル・サージェントは追加作業そのものに反対したそうです。しかし、傑作というものはそうやって生まれます。本作品は全英チャートで2位を記録するヒットとなり、エコバニは本作品で絶頂を迎えました。

 キーンとしたひんやりギター・サウンドに耳を奪われつつも、前のアルバムの延長を期待していた身としては複雑な思いにとらわれたのも事実です。しかし、シャンカルの冴えたプレイは時代を画するものでしたし、見事なアレンジが施されて唸らされました。

 そんなわけで、以前のエコバニを聴いていた尺度とは違う仕方で本作品を大好きになったのでした。一皮むけた素晴らしいアルバムです。なお、中村とうよう氏の評は「あとはヴォーカルさえうまければ」と続きます。私との間には越えがたい溝がありそうです。

参照:ミュージック・マガジン1983年5月号

*2013年11月6日の記事を書き直しました。

Porcupine / Echo & The Bunnymen (1983 Korova)



Songs:
01. The Cutter
02. The Back Of Love
03. My White Devil
04. Clay
05. Porcupine
06. Heads Will Roll
07. Ripeness
08. Higher Hell
09. Gods Will Be Gods
10. In Bluer Skies
(bonus)
11. Fuel
12. The Cutter (alternate version)
13. My White Devil (alternate version)
14. Porcupine (alternate version)
15. Ripeness (alternate version)
16. Gods Will Be Gods (alternate version)
17. Never Stop (Discotheque)

Personnel:
Ian McCulloch : vocal, guitar, piano
Will Sergeant : guitar
Les Pattionson : bass
Pete de Freitas : drums
***
Shankar : strings