デヴィッド・バーンとブライアン・イーノの二人の名義によるアルバム「エヴリシング・ザット・ハウンズ・ウィル・ハプン・トゥデイ」です。この名義の作品としては名作「マイ・ライフ・イン・ザ・ブッシュ・オブ・ゴースツ」以来、実に27年ぶりになります。四半世紀以上です。

 本作品を制作するきっかけとなったのは「ブッシュ・オブ・ゴースツ」の再発だそうです。本作品が構想された出発点について二人の証言は食い違っているのですが、前作再発を機に二人は再び連絡を取り合うようになっていたことが背景にあることは間違いありません。

 この当時、イーノには「特に目的があるわけではなく」、インストゥルメンタルの曲がたくさん手元にできていました。バーンは、「言葉を書くのが大嫌い」なイーノに対して、「歌詞とメロディーをそれらのトラックに合わせて書いてみる」と提案したそうです。

 その時点では「気に入らなかったら、まあそこでやめればいい」くらいの軽い気持ちだったようですが、天才二人のコラボですから、結果が出ないわけがありません。イーノのトラックを聴いたバーンには一つの世界がはっきりみえたのでしょう。本作が誕生します。

 バーンが「予想外に、アンビエントではなかった」トラックに「フォーク/エレクトロニック/ゴスペル的な感覚」を感じ取り、その方向で自身の言葉とメロディーを表現することとし、イーノもまた「長年私が抱いているゴスペルに対する愛情」を思い起こしてこれを了承します。

 なお、イーノに「ゴスペルへの愛情を無意識のうちに教えてくれたのはデヴィッドとトーキング・ヘッズだった」のだそうです。素敵な音楽作品が生まれる背景にある物語として完璧じゃないでしょうか。人生というか世界はつながっているんです。

 出来上がったアルバムは「ブッシュ・オブ・ゴースツ」とは似ても似つかない作品ですけれども、あれから四半世紀の間、常に第一線にいた二人の活躍を少しでも追いかけていれば、本作品のサウンドに驚愕するようなことはありません。しみじみと感じ入るのみです。

 サウンドはイーノが中心になっており、この時期によくコラボレーションをしていたギタリスト、レオ・アブラハムスが共同プロデューサーとして係わっています。フィル・マンザネラやロバート・ワイアットが参加したトラックもあり、温めていた時間を感じます。

 バーンのボーカルはアルバムを貫く「フォーク/エレクトロニック/ゴスペル」的な感覚が如実に伺えます。最初に仕上げた曲が「ワン・ファイン・デイ」ですから、題名からしてゴスペル的なことが分かるでしょう。バーンのボーカルはいつにまして力強いです。

 「音楽はブライアン、ボーカルと歌詞は私」と明確な役割分担をしながら、大西洋の両側でコラボレートして、この一体感あふれる豊かなアルバムを作り出した力量には感服するしかありません。大ベテランとなってなお、お互いに刺激し合って新しいものを作り出す。凄いです。

 ジャケットはスイスのアーティスト、スティーヴン・ウォルターのイラストです。デザインはステファン・サグマイスター、長年のコラボレーターです。どことなくまがまがしい印象を与えるデザインに胸がざわざわします。アルバムの隠された性格を示しているようですね。

Everything That Happens Will Happen Today / David Byrne & Brian Eno (2008 Todo Mundo)



Songs:
01. Home
02. My Big Nurse
03. I Feel My Stuff
04. Everything That Happens
05. Life Is Long
06. The River
07. Strange Overtones
08. Wanted For Life
09. One Fine Day
10. Poor Boy
11. The Lighthouse
(bonus)
12. Poor Boy (remix)

Personnel:
David Byrne : vocal, guitar
Brian Eno : bass, keyboards, electric drums, kaoss pad, guitar, organ, brass, chorus, strings, programming
***
Leo Abrahams : guitar, percussion, piano, programming, bass
Seb Rochford : drums
Steve Jones : guitar
Tim Harries : bass
Phil Manzanera : guitar
Dan Levine, Dave Mann, Barry Danielian, Paul Shapiro : brass
Mauro Refosco : percussion