「ブリージン」、心地よい響きです。英語には日本語のような擬音語はあまりありませんけれども、単語そのものが音をはらんでいます。ブリーズィン・・・と発音するだけで、部屋の中に気持ちの良いそよ風が吹いてきます。そこにジョージ・ベンソンのギターがくればもう無敵。

 ジャケットは爽やかさに欠けると思う人もいるかもしれませんが、この頃のベンソンは、すでに十分なキャリアを積んではいたものの、まだポップ界では初々しい新人のような姿で写っています。後のベンソンの活躍ぶりを知れば、ジャケットの爽やかさが分かります。

 本作品はすでにジャズ界ではしっかりとした実績を上げていたベンソンがポップス界でもブレイクした記念すべき作品です。何でもジャズ・アルバムとしては初のプラチナ・ディスクに輝いたとか。ビルボードのメイン・チャートでも1位を獲得しています。

 さらにグラミー賞でも、本作品が最優秀ポップ・インストゥルメンタル・パフォーマンス賞、シングル・カットされたボーカル曲「マスカレード」が最優秀レコード賞に輝いています。「マスカレード」は本家レオン・ラッセルよりもこちらの方が格段に有名です。

 日本でも大いに売れました。特にタイトル曲は街中の至るところから流れてきました。R&Bシンガーのボビー・ウーマックがハンガリー出身のギタリスト、ガボール・ザボに提供した楽曲をベンソンが特大ヒットにしました。ザボさんの心中は穏やかでなかったようです。

 このアルバムを語る際に欠かせないのはプロデューサーのトミー・リピューマの存在です。日本にはYMOを発掘した人として知られる大プロデューサーで、ベンソンのステージに「いきなりブッ飛ばされたよ」と即断即決でベンソンをワーナーに連れてきました。

 しかも、リピューマは、それまでギタリストとして名を上げており、ほぼギターに専念していたベンソンの歌手としての魅力をいち早く見抜きました。この作品ではボーカル曲は「マスカレード」わずか1曲だけなのですが、それが大ヒットになりました。

 ベンソンはとにかく凄いギター・テクニックの持ち主なんだそうです。もともとはジャズ・ギターの神様ウェス・モンゴメリー直系のギターを弾きますが、この作品では、ジャズにしては派手目ながら、ポップスとしては落ち着いた爽やかで見事なギターを披露します。いい音です。

 そこに軽めのストリングス、シンプルで主張しすぎないベース・ギター、先走らないファンクがかったリズム、すべてがベンソンのまろやかなギターの音を引き立てています。まるで過不足のない見事なプロダクションであるといえます。本当に気持ちが良いサウンドです。

 タイトル曲は、それこそ全力をあげてそよ風を吹かせています。この心地よさはどうでしょうか。ユーチューブのコメント欄には「パラダイス・ミュージック」という指摘がありました。この軽快なサウンドは多くのフォロワーを生んで一つの時代をつくりました。

 当時はパンクを聴いていた高校生の私はこれを軟弱だと批判していましたが、友人がバイトする喫茶店でこればかり聴かされていたものですから、結局、私の血となり肉となっています。今でも無条件に体が反応して、気持ちがよくなってしまいます。

Breezin' / George Benson (1976 Warner)

*2012年7月7日の記事を書き直しました。



Songs:
01. Breezin'
02. This Masquerade
03. Six To Four
04. Affirmation 私の主張
05. So This Is Love? これが愛なの?
06. Lady 愛するレディ

Personnel:
George Benson : guitar, vocal
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Jorge Dalto : piano, clavinet
Ronnie Foster : piano, synthesizer
Phil Upchurch : guitar, bass
Stanley Banks : bass
Harvey Mason : drums
Ralph MacDonald : percussion
Claus Ogerman : conductor