デヴィッド・バーンの3年ぶりのスタジオ・アルバム「フィーリングス」です。間は空いていますけれども、もはや音楽だけにはとどまらないバーンですから、その間も写真集を発表したり、ルアカ・バップからワールド・ミュージックの作品をリリースしたりと大活躍でした。

 久しぶりのアルバムの最大の話題は英国のトリップ・ホップ・ユニットであるモーチーバとのコラボレーションです。ポールとロスのゴッドフリー兄弟とボーカルのスカイによるトリオはクラブ・ミュージックの人気アーティストとして活躍していました。

 バーンのコラボはこれまでは何となくベテラン・ミュージシャンが多かったですが、モーチーバは少し毛色が変わって、バーンに比べればかなりの若手です。最新の若者音楽とのコラボはバーンのソロ作品としては初めてともいえるのではないでしょうか。

 まだ駆け出しだと思っていたモーチーバは突然憧れのスターであったバーンから電話を受けて大そう驚いたそうです。バーンはドラム・マシーンをバックに弾き語りするデモをモーチーバのもとに送り、モーチーバはそれをもとに曲を作り上げていきました。

 その結果は、たとえば「ダディ・ゴー・ダウン」という曲では、ヒップホップ・ビートにロス・ゴッドフリーが弾くシタールや、ピエール・ラ・ルーという奏者によるケイジャン・フィドルが重なるという奇妙なミクスチャーになっています。大変楽しそうなコラボです。

 もっともコラボ相手はモーチーバだけではありません。シアトルのブラック・キャット・オーケストラやC-n-A、ハン・ロウなどの見知らぬ名前に交じって、英国のニュー・ウェイヴ勢を多く手掛けたマーク・ソーンダースやディーヴォのマーク・マザースバウがいてほっとします。

 曲ごとにコラボレーターが代わるものですから、バーン本人も同じボーカリストを擁する6つのバンドのオムニバスのようにとっ散らかったアルバムになるのではないかと危惧したようです。しかし、結果的にはとても統一感のある一貫したアルバムになりました。

 これまでのラテンやアフロのみならず、ヒップホップやカントリーなどのさまざまな音楽要素がとても自然に融合しています。デヴィッド・バーンの音楽という以外に言いようがありません。妙に先鋭的になるでもなく、トレンドに迎合するわけでもない。バーンはバーン。

 バーンにはアメリカの音楽業界が型にはまってみえたようです。広い世界にはいろんな素晴らしい音楽があるのに、アメリカ人はそれを聴こうとせず、存在すら知らない。バーンはさまざまな音楽の魅力を自らの音楽に乗せて広めていく使命を感じているようです。

 そんなバーンの作品は、ヒットチャートを席巻するポピュラー音楽の世界とは異質なものを感じます。アングラというわけではなく、ミュージカルやダンス・パフォーマンス、あるいは映画といったもう一つのメイン・ストリームの方が似合う、そんなイメージです。

 実に味わい深い本作品などはそう考えると素直に腹落ちする傑作だと思います。なお、ジャケットのバーン像は、ニューヨークのスタジオUGを主催し、草間彌生像なども手掛けたユージ・ヨシモトの作品です。そんなところも味わい深い。さすがはバーンです。

Feelings / David Byrne (1997 Luaka Bop)



Songs:
01. Fuzzy Freaky
02. Miss America
03. A Soft Seduction
04. Dance On Vaseline
05. The Gates Of Paradise
06. Amnesia
07. You Don't Know Me
08. Daddy Go Down
09. Finite=Alright
10. Wicked Little Doll
11. Burnt By The Sun
12. The Civil Wars
13. They Are In Love

Personnel:
David Byrne : vocal, guitar, keyboards, synthesizer, harmonium, autoharp
***
Joe Galdo, Hahn Rowe, Mark Mothersbaugh, Mark Saunders, Andres Levin, Camus Celli, Lori Goldston, The Black Cat Orchestra, Morcheeba Productions : production
Ross Godfrey : guitar, keyboards, sitar
Paul Godfrey : scratches, sequencing, sampler
Andres Levin, Russ Meltzer : guitar
William South : organ, clavinet
Peter Scherer : organ, keyboards
Lester Mendez, Mark Saunders : keyboards
Hahn Rowe : synthesizer
Paquito Hechavarria : piano
Greg Cohen, Andy Waterworth, Jerry Casalem Andy Hess, Matthew Sperry : bass
Joe Cooper : drums, percussion
Sterling Campbell, Joseph Zajonc : drums
Vinicius Cantuaria : handclaps, percussion
Ed Pias : bongs, shaker
El Fantasmo : coro
Kyle Hanson : accordion
Ed Calle, Scott Granlund : sax
Dana Teboe : trombone
Ité Jerez, Tony Concepcion, Steve Bentley-Klein : trumpet
Don Crevie : French horn
Ashley Maclsaac, Perre La Roux : fiddle
Nicholas Holland, Akua Dixon, Lori Goldston : cello
Juliet Haffner : viola
Ashley D. Horne, Carlos Baptiste : violin
Skye Edwards, Betty Wright, Paula Cole : chorus
Jonathan Dryden : orchestration
The Black Cat Orchestra