前作までとはうって変わってとても落ち着いたジャケットです。デヴィッド・バーンが初めて自らの名前を冠したソロ・アルバムを発表しました。内容もラテンが全開だった前々作、それに続く派手目な前作とは異なり、ジャケット同様に落ち着いた作品です。

 この頃のバーンのバンドは四人組でした。トーキング・ヘッズ時代に戻ったかのような布陣です。ベースのポール・ソコロウはボストンのファンク系フュージョン・バンド、ジョン・ペインールイス・レヴィン・バンドにいた人です。ジャム・バンドですね。

 トッド・ターキッシャーはニューヨークを拠点に活動するドラマーでポップからジャズ、ロックにアヴァンギャルドと何でもこなす才人で、バーンの他にもウテ・レンバーやスティーヴ・ヴァイなど数多くのアーティストとの共演で知られる人気ドラマーです。

 この二人は本作品のレコーディングでも中心的な役割を果たしているのですが、もう一人のパーカッショニスト、マウロ・レフォスコは参加していません。トム・ヨークのアトムズ・フォー・ピースでも活躍する人だけに不参加は残念な気がします。

 その代わりに四人目のメンバーとして大活躍しているのが西アフリカのキーボード・パーカッションを得意とする米国人ヴァレリー・ナランジョです。彼女もまたフィリップ・グラスのアンサンブルからブロードウェイのライオン・キングまで幅広く活躍しています。

 本作品は基本的にこの四人によるサウンドで出来ています。いずれもラテン音楽を出自に持っているわけではありませんから、近作とはずいぶんサウンドは異なり、いわばトーキング・ヘッズ時代に近いサウンドが展開しているとよく言われます。

 しかし、バーンのソロ作ですし、いつものようにゲストも参加しています。中で目をひくのはやはりギターのアート・リンゼイでしょう。ラテン愛を同じくするニューヨークのパンク仲間で、本作品では共同プロデューサーも務めています。彼らしいギターを聴かせます。

 もう一人、注目したいのはメデスキ・マーチン・ウッズのジョン・メデスキです。こちらも当時話題になり始めていたジャム・バンドのキーボード奏者です。バーンの興味のありようがよく分かります。ヒップホップやエレクトロニクス系ではなくジャム・バンドです。

 プロデュースにはアートの他にプリンスのサウンド・エンジニアを務めていたことで知られるスーザン・ロジャースが起用され、バーンと共同でプロデュースにあたっています。ここにもバーンがどのあたりのサウンドを狙っていたのかが表れているようです。

 トーキング・ヘッズに近いと言われるのは前々作との対比であって、実際にはそれほどではありません。より落ち着いたサウンドで、私は後期のルー・リードのバンドを思い出しました。決してこの頃デビューしたベックのような新奇な魅力があるわけではありません。

 ラテン音楽も自らのサウンドに昇華して、堂々たるアダルトなロックが展開しています。バーンが入れ込んでいた映画監督業が影響していて、シンプルなサウンドながら、あたかもブロードウェイのミュージカルを見ているような気にさせる作品です。

David Byrne / David Byrne (1994 Luaka Bop)



Songs:
01. A Long Time Ago
02. Angels
03. Crash
04. A Self-made Man
05. Back In The Box
06. Sad Song
07. Nothing At All
08. My Love Is You
09. Lilies Of The Valley
10. You & Eye
11. Strange Ritual
12. Buck Naked

Personnel:
David Byrne : vocal, guitar, synthesizer, clavinet, bells, balafon, lap steel guitar
***
Paul Socolow : bass
Todd Turkisher : drums, percussion
Valerie Naranjo : drums, percussion
***
Arto Lindsay : guitar
John Medeski : organ, synthesizer
Sue Hadjopoulos, Bashiri Johnson, Bill Ware : percussion
Bebel Gilberto, Dolette McDonald : chorus
Mark Edwards : drones
Marcus Rojas : tuba