デヴィッド・バーンによるコラボではない初めてのソロ・アルバムです。タイトルの「レイ・モモ」はポルトガル語でカーニバルの王様を意味しています。そのタイトルが示唆する通り、本作品は徹底的なラテン音楽のアルバムになりました。

 本作品はバーンが立ち上げたルアカ・バップなるレーベルから発表されています。このレーベルはもともとバーンが大好きなカリブやラテンの音楽を友人たちのためにカセットに収めることから始まったのだそうです。昔はよくやりましたね。今ならサブスクのソングリストです。

 その逸話からも分かる通り、バーンはカリブ海やラテンアメリカの音楽の虜になっており、何とかしてそれを広めたいと思っていた模様です。その結果として、自分の最初のソロ・アルバムをそうした音楽で埋め尽くすことにしたということでしょう。

 アルバムに参加しているミュージシャンにトーキング・ヘッズの仲間は一人も含まれていません。当時からの人といえばボーカルのカースティ・マッコールくらいで、大半はラテン音楽の一流ミュージシャンばかりで、見事な中南米音楽を奏でています。

 その中にはサルサのウィリー・コロンとセリア・クルスのいった超大物の名前が光ります。バーンはウィリー・コロンと曲も共作しています。さらにドミニカのジョニー・パチェコも3曲を共作しており、その貢献が推し量られます。トラックは完全にラテンです。

 一口にラテン音楽といっても、さまざまなスタイルがあります。キューバのルンバやマンボ、ドミニカのメレンゲ、コロンビアのクンビアやブラジルのサンバ、プエルトリコのサルサなどなど。このアルバムではそうした多様なラテン音楽を貪欲に提示しています。

 アメリカのニュー・ウェイヴ仲間ではもう一人ラテンに入れ込んでいるアート・リンゼイが一曲共作するとともにコーラスで参加しています。なるほど意気投合するはずです。豊饒なラテン音楽に魅せられたアメリカの知的なアーティストが同じシーンにいたわけですから。

 この当時はスルーされていますけれども、アリアナ・グランデが日本語のタトゥーを入れただけで文化の剽窃と批判される現代にあって、もろに本場のラテン音楽奏者を使って、気持ちよさそうに自分の歌を歌うアルバムはどう受け止められるのでしょうか。

 バーンにはラテン音楽への愛着しかなく、何とか人々の耳に届けたいという意図であって、搾取するつもりは微塵もないとの説明もなされていますが、後に大ヒットするライ・クーダーの「ブエナ・ヴィスタ・ソーシャル・クラブ」の潔さの前では少しかすんでしまいます。

 ラテン音楽ファンの間ではボーカルさえなければ素晴らしいアルバムだと言われていたようです。確かに色気たっぷりの艶めかしい楽器演奏と、角ばったバーンのボーカルのミスマッチはラテン・サイドからは分かりにくそうです。ここはパンク・サイドから見るべきです。

 このミスマッチ感もまた乙なものです。本場ミュージシャンを揃えた作品は渋谷陽一氏の「リメイン・イン・ライト」批判が当てはまるわけですが、ここまでしっかりとプロデュースするバーンとスティーヴ・リリーホワイトの手腕によって、なかなかの力作になっています。

Rei Momo / David Byrne (1989 Luaka Bop)



Songs:
01. Independence Day
02. Make Believe Mambo
03. The Call Of The Wild
04. Dirty Old Town
05. The Rose Tattoo
06. Loco de Amor
07. The Dream Police
08. Don't Want To Be Part Of Your World
09. Marching Through The Wilderness
10. Good And Evil
11. Lie To Me
12. Office Cowboy
13. Women vs Men
14. Carnival Eyes
15. I Know Sometimes A Man Is Wrong

Personnel:
David Byrne : guitar, vocal
***
Kirsty MacColl, Celia Cruz, Arto Lindsay, Herbert Vianna : vocal
Yomo Toro : cuatro
Tiborio Nascimento, Romero Lubamba : guitar
Lucinho Bizadao : cavaquinho
Eric Weissberg : mandolin, pedal steel guitar
Wilfred Garcia : tambora
Lucinho Bizadao : cavaquinho
Sergio Bridao, Andy Gonzalez, Ruben Rodriguez : bass
José Gallegos : keyboards
Paquito Pastor, Leini Guerrero : piano
Agapito Pasqual, James Fearnley : accordion
Jon Brion : harmonium
Juan Martinez, Robbie Ameen : drums
Milton Cardona, José Mangual Jr., Jonny Pacheco, Huti Rodriguez, Cyro Baptista, Claudio DaSilva, Jorge DaSilva, Reinaldo Fernandes, José J. DaSilva, Luis Arias : percussion
Marc Quiñones, Charlie Santiago : timbales
Santiago Pasqual, Luis Manuel : guiro
Lewis Kahn, Felix Farrar, Lloyd Carter, Elvis Garcia : violin
Enrique Orengo : cello
Bob Porcelli, Ken Hitchcock, Oscar Pena : alto sax
Mitch Frohman, Lawrence Feldman : tenor sax
Steve Sacks : baritone sax
Angel Fernandez, Charlie Sepulveda, Joe Shepley, Piro Rodriguez, Ite Jerez, Steve Guffman, Augusto Onna, Jr., Shunzo Ono : trumpet
Dave Taylor, Lews Kahn, Dale Turk : bass trombone
Tom Malone, Barry Olsen, David Sacks, Keith O'Quinn, Sam Burtis, Barry Rogers, Joe DeJesus : tenor trombone
Carlos Soto, Milton Cardona, Willie Colon, Lucy Penabaz, Augusto Onna, Jr., José Mangual Jr., Johnny Pacheco : chorus
Acua Turree Ensemble : strings