ヴォルフ・フォステルは1960年代を代表する芸術運動フルクサスの創始者の一人です。フルクサスが始まったとされる1962年9月のドイツでの「フルクサス国際現代音楽祭」にもジョージ・マチューナスやナム・ジュン・パイクらと共に出演しています。

 フルクサスには日本から武満徹や一柳慧、小杉武久なども参加しています。彼らは音楽を追求していた人たちですけれども、もう一人の有名人オノ・ヨーコといえばハプニングです。フルクサスといえばむしろこのハプニングと称されるイベントが典型です。

 フォステルはもともと画家、彫刻家として活動を開始し、シュトックハウゼンの影響などを受けて音楽表現にも目覚めていったといわれています。また、ナム・ジュン・パイクと並んで芸術に初めてビデオを作品に取り入れた総合メディア・アーティストでもあります。

 フォステルは自身の活動を「デコラージュ」という言葉で表現しています。Dé-coll/ageと独特の綴り方をしています。これはコラージュの対義語ですから、既存のイメージを組み合わせていくのではなく、解体していくことを意味します。ポスターを重ねるのではなく破くとか。

 本作品は1959年から1981年までの間にフォステルが行ったさまざまな活動を記録したアルバムで1983年に発表されたものです。題名はもちろん「デコラージュ・ミュージック」です。活動内容は幅広いですが、首尾一貫した姿勢が貫かれています。

 音楽を主目的としたいわゆるライブとは異なり、ハプニングやインスタレーションの一部としての音楽が収録されたものと理解すればよさそうです。最後の曲のみはフルクサスによるオペラの一部抜粋となっていますが、こちらも音楽だけというわけではありませんうから。

 フォステル自身の言葉はとても難解です。「音楽という言葉を聴いた時に脳はどんな音をたてるだろうか」。ここでは電球の破裂やポスターの切り裂きなどの音を聴覚が処理するプロセスが再起的であることを表現している模様です。ノイズへの反応というべきか。

 それはさておき、ここで聴かれるサウンドは、「落下物体の衝突、危険に直面した人々の叫び、車の衝突、テレビのホワイト・ノイズ、チューニングの狂ったラジオ・サウンド、身体の発するさまざまなサウンド」、さらには航空機や工場の騒音などさまざまです。

 一般的にはデのつかないコラージュに聴こえますが、フォステルはどうやら音の発生した場面から音を切り離すことをもってデコラージュとしているようです。なるほどとは思うものの、ハプニングの場に立ち会っていないとなかなかそれを想像するのは難しいです。

 音楽はもともと抽象的なものですから、切り刻んで再構築したとしても視覚芸術ほどの違和感はありません。むしろカット・アップにマッシュ・アップなどはクラブ音楽のもはや主流とも言えるテクニックになっています。本作品も普通にノイズ音楽の範疇で処理できてしまいます。

 その観点から見ると、さすがに投入されるサウンドの幅が広いですし、サウンドをまとめようというベクトルが働いていないところで、極めて刺激的な作品になっています。過激なインダストリアル・ノイズ・ミックスとして現代ノイズ界に影響を与えている作品です。

Dé-Coll/Age Musik / Wolf Vostell (1983 Fondazione Mudima)



Songs:
01. Radio dé-coll/age
02. Dé-coll/age Manifesto
03. Sun in your Head
04. El aeropuerto como sala de concierto
05. Elektronischer dé-coll/age
06. Telemetre
07. MiM
08. Hochspannung
09. Fandango
10. Heuwagen
11. Giovanna La Pazza
12. San Diego Freeway
13. Garden of Delices

Personnel:
Wolf Vostell