これぞ80年代のサウンドです。リック・スプリングフィールドの大ヒット曲「ジェシーズ・ガール」を含むアルバムは、1980年代のヒット・チャートを賑わすことになるハード・ポップ・スタイルで大ブレイクしました。80年代のメインストリーム・サウンドです・

 オーストラリアに生まれたリックは19歳の時にはすでにバンドを組んでアルバムを発表しています。オーストラリアではそこそこの人気を獲得しますけれども、さらなる成功を目指して、単身渡米します。オーストラリアのミュージシャンあるあるですね。

 本国での人気が後押ししてレコード会社との契約は順調に進み、アルバム・デビューを果たしましたが、長続きはしませんでした。俳優業も始めたもののこちらもぱっとしません。そうして「あの頃の僕は失業中の俳優兼ミュージシャンでね。本当に骨と皮ばかりの生活だったな」。

 「レコードの仕事は3年もなかった」リックでしたが、RCAから声がかかり、さらに俳優仕事も突然オファーが来ます。こういうことが起こるものなのですね。そのチャンスをしっかりとものにするのですからリックは凄いです。ひも生活が一転します。

 そうして制作されたのが「ジェシーズ・ガール」です。RCAはまずプロデューサーとしてキース・オルセンを起用します。「あの頃私はフリートウッド・マック、フォリナー、ザ・ベイビーズ、サンタナ、その他にも一連のヒット曲をプロデュースしてたんだ」と勢いがありました。

 キースがプロデュースしたのは「ジェシーズ・ガール」とあと1曲に過ぎませんが、その「ジェシーズ・ガール」が80年代を代表するヒット曲になりました。1981年2月に発売されたこの曲は19週間かけて全米1位になります。年間チャートでも5位です。じわじわ売れたわけです。

 アルバムの他の曲は、この後長くタッグを組むロサンゼルスのプロデューサー、ビル・ドレッシャーとリックが共同でプロデュースしています。彼らが神経を尖らせたのは、「素晴らしいポップ・ソングならどんな歌でも持っている公式」に忠実に従うことです。

 それは「力強いイントロ、力強い歌詞、力強いコーラス、素晴らしいブリッジがあってコーラスに戻っている」というもので、そのため「どの作品もとても構成がしっかりしていて、タイトな感じのものになったんだ」とこのアルバムの成功を分析しています。

 どの時代にも通用する公式ですが、ここではそれを徹底的に80年代仕様でハードに決めています。この頃、同じRCAでキースが手掛けていたのがパット・ベネターで、二人はこの80年代ハード・ポップの男版と女版だといえます。参加ミュージシャンまで一部重なります。

 テンションが高くて、ポップでキャッチー。それをクリアなサウンドで押しまくるわけですから、当時はとても新鮮に感じました。どこまでも明るいサウンドは80年代のポップ・サウンドのある種の定番となり、多くのヒット曲がこの路線を踏襲したのでした。

 ジャケットはリックとひも時代も共に過ごした愛犬ロニーの雄姿です。3年間の「普通の生活」を表現する原題と、美少年ジャケは使わないことにこだわったリックにとって、ロニーこそがその回答となったのでした。愛犬あってこそのリックの復活です。

Working Class Dog / Rick Springfield (1981 RCA)



Songs:
01. Love Is Alright Tonite
02. Jessie's Girl
03. Hole In My Heart うつろなハート
04. Carry Me Away
05. I've Done Everything For You
06. The Light Of Love 愛の輝き
07. Everybody's Girl
08. Daddy's Pearl
09. Red Hot & Blue Love
10. Inside Silvia わが心のシルヴィア
(bonus)
11. Easy To Cry
12. Taxi Dancing
13. Jessie's Girl (demo version)

Personnel:
Rick Springfield : vocal, guitar, bass, keyboards
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Roben Ford : guitar
Neil Giraldo : guitar, bass
Gabriel Katona : keyboards
Jeff Eyrich : bass
Mike Baird : drums
Jack White : drums
Jeremiah Cox : French horn, backing vocal
Tom Kelly : backing vocal