49アメリカンズは調べれば調べるほど面白いバンドです。アメリカ人49人からなるバンドだと紹介されていますけれども、中心人物アンドリュー・ブレンナーはアメリカ生まれのイギリス人なのかイギリスに移住したアメリカ人なのかライナーノーツがすでに割れています。

 本作品は49アメリカンズのデビュー作にあたる「ワンダー」ですが、このタイトルからして当初はアメリカ合衆国を表すラテン語の成句「エ・プルリブス・ウヌム」が使われていました。「ワンダー」は日本で紙ジャケ再発された際に採用されたタイトルです。

 49アメリカンズはごくごく自然にロンドンのパンク/ニュー・ウェイブ・シーンから登場しました。「1970年代の終わりにパンク、ニューウェーブ、自分たちでレコーディングするといった10代の生活を見出したんだ」というわけです。もちろん楽器などできない人たちです。

 「僕らはメンバー間の音楽性の違いを受け入れて、本物のロックンロールを演奏する。僕らは同じドラマーを2回使わない。3曲以上演奏するのに3曲ごとにバンドのメンバーを変えるということだ」。真に受けてはいけませんが、非音楽家による音楽共同体らしい発言です。

 当時のロンドンにはこうした試みを面白がるコミュニティーが存在しました。その顔ともいえるのがフライング・リザーズにも参加し、今に至るも幅広い活動を続けるデヴィッド・トゥープです。本作品はトゥープがステレオ・カセットに録音しているものです。

 両者の出会いはトゥープを含む即興ミュージシャンが中心になって設立したロンドン・ミュージシャンズ・コレクティヴにアンドリューが参加してきたことによります。「どうして一緒に曲を書くようになったかわからないけど、起こってしまったんだ」とトゥープはいいます。

 そうしてアンドリューは大勢の若者たちを組織し、自主レーベルも立ち上げて、本作品の発表にこぎつけます。少しは楽器ができる人もいるようですが、概ね演奏する技術の面ではまるで素人ばかりで、音楽的な洗練を目指さない天真爛漫な演奏を収録した作品です。

 しかし、長くても2分程度の曲ばかり32曲を収録したアルバムの後半20曲はミュージカル仕立てで作品としてのまとまりを感じます。「金切り声をあげる女の子がたくさん現れることを期待していた」り、「楽器がうまくなかったから損した」と反省したりと大真面目なんです。

 ミュージカルは昔々ある王国にドラゴンが現れ、挑戦する騎士たちを次々に食べてしまいますが、王様はこれは現実ではないとかたくなに言い張るという物語です。なかなか深い物語がいかにもミュージカル風に展開されていきますので、ついつい聴き入ってしまいます。

 サウンド自体はまさにDIYの極致です。ロンドンのフリー・ミュージック・シーンがパンク/ニュー・ウェイブによって解放された若者を取り入れて出来上がった作品だけに、開放感が際立ち、音楽の原初に立ち返ったような清々しさを連れてきます。いい作品です。

 なお、アンドリューはこののち子ども向け作品のライターとして活躍することとなり、2010年から2018年までは機関車トーマスのヘッドライターを務めるなど大成功を収めています。このミュージカルもそう思って聴くとまた格別ですね。

Wonder / The 49 Americans (1980 Choo Choo Train)



Songs:
01. Beat Up Russians
02. That Man
03. Involved In Local Chaos
04. Doubt
05. Edible
06. Should Be More Ideal
07. All The Fun
08. Sounds Like Ska
09. Architecture Stops
10. Don't Sing The Blues
11. Heritage
12. Pledge Of Allegiance
13. Overture
14. Song Of The Peasant (Chief Peasant)
15. Tralala (Eldest Prince)
16. Dragon Eating Peasants Instr.
I Don't Want (Royal Children)
18. Let Youself Go (Impulsive Knight)
19. Digestion Instr.
20. Fairly Tale (King)
21. What You Need (Equipped Knight)
22. Digestion Instr.
23. Intellectual Yodel (Theoretical Knight)
24. Pain In The Belly (Friendly Knight)
25. Digestion Instr.
26. Ha Ha Ha (Jester)
27. Aye, There's The Battle (Dreamy Knight)
28. Digestion Instr.
29. Yodel Again (Theoretical Knight)
30. Digestion Instr.
31. Fairy Tale (Reprise) (King)
32. Contradictions - The Finale (Jester)
(bonus)
33. Newton's Laws
34. Book Addict
35. All The Fun
36. Heritage
37. Classified
38. The Uncertainty Principle
39. Intellectuals On Parade

Personnel:
Bendle, Crispin Keable, Else, Etta Saunders, Helena, Keith James, Marie Leahy, Mark J., Max Eastley, Nag, Nat, Nick, Nick Andraloji, Steve Beresford, Taya Fischer, Viv Albertine, Vivien Goldman, Giblet (Andrew Brenner) etc.