クラウト・ロック最高峰のバンドの一つ、ノイ!は3枚のアルバムを残して解散してしまいました。1975年のことです。以降、クラウス・ディンガーとミヒャエル・ローターの二人はそれぞれの活動を続け、ノイ!時代を越える成功を手にしていきます。

 そんな二人でしたが、1985年10月から翌年4月まで、ノイ!再結成を期して仲良くスタジオに入りました。10年後の邂逅で、二人は久闊を叙して息の合った演奏を繰り広げました。ということであれば良かったのですが、どうもしっくりこなかった様子です。

 半年にわたる制作期間にはゆうにアルバム1枚分の音源が録音されていましたけれども、当時はクラウト・ロックが冴えなかった時代です。あのクラフトワークもヒップホップに再評価されつつあったものの、活動は低迷を余儀なくされていました。

 そんな時期ですから、アルバム発表を引き受けてくれるレコード会社もあらわれず、結局、作品は最終的な完成を見ることなくお蔵入りしてしまいました。自信作であったわけでもありませんから、二人の胸中は複雑なものがあったことでしょう。

 しかし、アルバムを巡るお話はここからややこしくなります。放置されていたアルバムは十年後の1995年に日本のキャプテン・トリップ・レコードから「ノイ!4」として突如発表されました。これは快挙でした。さすがはキャプテン・トリップさん、と誰もが思ったものです。

 ところが、この発売はクラウスの独断だったということで、ローターはこれを認めませんでした。ローターが知らされたのは、完成後、クラウスからの突然の歓びの連絡だったそうです。これは怒るでしょう。二人の確執は最高潮に達します。

 しかし、2008年にクラウスが他界したことをきっかけに、ローターはクラウスの遺族の許可を得て、「ノイ!4」を再構築、再構成して、この「ノイ!86」を完成させました。この頃には、クラウト・ロックの評価も定着しており、世界は素直に祝福しました。

 長い経緯を経て、最初の録音から四半世紀を要して完成に至ったアルバムです。そんな経緯が溝に刻まれているような気がします。初期3作はあっけらかんと勢いでアルバムを作り上げていましたけれども、本作品はじっくりと手が加えられています。

 「ノイ!4」に比べるとオーバー・プロデュースだといわれます。しかし、そこはクラウスとローターの個性の差であると考えれば腑に落ちます。同じ音源を編集しても二人の個性がくっきり出てくる、それがノイ!です。本作品は当然ローター色が色濃い。

 ノイ!の作り上げたサウンドはロックの背骨の一つを形成しており、その影響を受けて花開いたバンドは数多くいます。四半世紀ぶりのノイ!自身がそうしたノイ!門下生の百花繚乱サウンドの影響を強く受けています。そこが本作品で示される、ノイ!その後、です。

 あの名曲「ラ・バンバ」のノイ!バージョンを始め、アパッチ・ビートの曲やローター節全開の曲、クラウスに捧げた胸を締め付けられるような「KD」まで、アルバムとしてのまとまりはありませんけれども、ノイ!を鎮魂するに相応しいさまざまな思いを受け止める作品です。

*2012年6月8日の記事を書き直しました。

Neu! 86 / Neu! (2010 Grönland)



Songs:
01. Intro (Haydn Slo-Mo)
02. Dänzing
03. Crazy
04. Drive (Grundfunken)
05. La Bomba (Stop Apartheid World-Wide!)
06. Elanoizan
07. Wave Mother
08. Paradise Walk
09. Euphoria
10. Vier 1/2
11. Good Life
12. November
13. KD

Personnel :
Michael Rother : guitar, bass, keyboards, synthesizer
Klaus Dinger : vocal, guitar, keyboards
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Michel Grund : bass, percussive sound
Georg Sessenhausen : drums
Birgit, Jochen : voice