ノイ!のデビュー作は3万枚以上を売り上げるというマイナー・レーベル、ブレインにしてはちょっとしたヒットを記録しました。それに力を得た二人は、シングルを発表、ツアーにも出て、さらにこうしてセカンド・アルバムを制作しました。「ノイ!2」です。

 このアルバムの話題は何といっても収録されたリミックスにあります。アルバムはA面が新しく録音された曲、B面は短い1曲を除き、ほとんどが先に発表したシングル曲とその「リミックス」で構成されているんです。今では珍しくありませんが、当時としては画期的なことです。

 そのリミックスなるもの、ここでの彼らはシングル盤を回転数を変えてみたり、ターンテーブルを手で回してみたりして録音しているだけではあります。時代が時代だけにマルチトラックを再構築とはいきません。それでもスクラッチが登場しているところは驚きです。

 先行シングル曲2曲のうち、「ズーパー」は33回転、78回転、16回転と三パターン、「ノイシュネー」は33回転と78回転、さらに手でくねくねターンテーブルを回すバージョンが収録されました。「ハロー・エクセントリコ!」と題されたくねくねがスクラッチ入りです。

 何でこんなことをしたのかというと、A面を制作したところでお金が尽きてしまったということです。スタジオ費用があと一日分しか残っていないという状況で思いついたのが「ポップ・アート的な考えだ」とクラウス・ディンガーが自賛するこの企みです。

 周囲からは遊んでいるだけだと思われたそうですが、当たらずとも遠からずだったのではないでしょうか。評論家からは気が狂ったのではないかとか、塩化ビニールの無駄遣いとか、酷評されたそうですが、この暴挙がアルバムに永遠の命を与えたのですから面白い。

 余談ですが、「ズーパー16回転」は1975年に香港映画「片腕カンフー対空飛ぶギロチン」に無断使用されているそうです。発表からわずか2年しか経っていない、ドイツのマイナーな音楽に目をつけるとは香港の映画界は恐るべき業界です。

 B面ばかりが話題になりますけれども、A面も充実しています。前作同様、アパッチ・ビートにぽわんぽわんのギターが炸裂しています。さらにクラウスとミヒャエル・ローターの二人が演奏する楽器がより多彩になり、シンプルながらも肉がついてきました。

 プロデューサーは前作同様、ドイツ音楽界の至宝コニー・プランクが担当しています。プランクのサウンド処理の冴えがノイ!には不可欠だったのでしょう。あっけらかんとした青空が広がるサウンドはあいかわらず素晴らしいです。このシンプルなサウンドは飽きがきません。

 ところで、ノイ!の音楽は、歌詞があって、Aメロ、Bメロ、サビのメロディーがあって、というようなスタイルではありませんから、スタジオ費用が1日残っていたのならば、二人で即興で演奏して、それを仕上げることもできたのではないかと思います。

 そうはならなかったのは二人の関係がしっくり来なくなっていたからでしょう。二人はこの後でたもとを分かち、それぞれラ・デュッセルドルフ、ハルモニアとして活躍していくことになります。それを考えると傑作には違いありませんが、少し胸がざわざわします。

*2012年5月10日の記事を書き直したものです。

Neu! 2 / Neu! (1973 Brain)



Songs :
01. Für Immer
02. Spitzenqualität
03. Gedenkminute (Für A+K)
04. Lila Engel
05. Neuschnee 78
06. Super 16
07. Neuschnee
08. Cassetto
09. Super 78
10. Hallo Excentrico!
11. Super

Personnel :
Klaus Dinger : percussion, piano, guitar, bandoneon, voice, electronics, turntable, Japanese banjo
Michael Rother : guitar, bass, piano, violin, zither, percussion, electronics, effects