1960年代末から70年代にかけてドイツに起こった実験的な音楽のムーブメントをかつてはジャーマン・プログレと呼んでいました。今ではクラウト・ロックと呼ばれる一群のバンドたちの中で、デュッセルドルフ派に属するノイ!の存在感は大きなものがあります。

 デュッセルドルフ派の中で最も有名なアーティストといえば文句なくクラフトワークでしょう。ノイ!はそのクラフトワークの最初期にメンバーとして参加していたドラムのクラウス・ディンガーとギターのミヒャエル・ローターの二人が結成したバンドです。

 ブライアン・イーノに「70年代には3つの偉大なビートがあった。フェラ・クティのアフロビート、ジェイムズ・ブラウンのファンク、そしてクラウス・ディンガーのノイ!・ビートだ」という有名な言葉があります。さすがはイーノ、上手いことを言うものです。

 クラウスのたたき出すビートはそれほど魅力的なんです。当時は「モータリック・ビート」や「ハンマー・ビート」と呼ばれていました。本人は「エンドロス・ゲラード」、すなわち「永遠に真っ直ぐ」と呼んでいましたが、後に「アパッチ・ビート」と自称するようになりました。

 機械的で単調な典型的エイトビートが延々と続く「アパッチ・ビート」は決して重くはありません。クラウト・ロックの重鎮プロデューサー、コニー・プランクはこの単調なビートを実に軽やかなサウンドに仕上げています。これがとにかく素晴らしい。

 機械のようなビートなのに実にヒューマン。コロンブスの卵的な発想といえるのではないでしょうか。クラウスはLSDを多用していたようですから、こうしたリズムで自らも昇天していたのかもしれませんが、呪術的という言い方よりも抜けるような青空を思わせます。

 とはいえ、アルバム全6曲のうち、アパッチ・ビートが堪能できるのは2曲のみです。イギリスの重鎮DJ、ジョン・ピールが自らのショーのオープニングに使っていたノイ!の代表曲「ハロガロ」と、このアルバムで最初に録音された「ネガティヴランド」がそれです。

 「ハロガロ」はノイ!のサウンドの魅力をすべて持ち合わせています。メトロノームのように反復する軽やかなドラム・ビートに、ローターのぽやぽやしたギターが躍動するそのサウンドは爽快、実に爽快です。煽られるというよりも脱力させられる楽しい名曲です。

 「ネガティヴランド」は、削岩機のようなドリル音から始まります。ここではローターのベースも活躍して、ベース入りのアパッチ・ビートが躍動します。ベース入りだけにやや重い。この曲では「ジャパニーズ・バンジョー」が使用されています。どうやら大正琴のようですね。

 残りの4曲ではビートの役割は小さく、アンビエント的なサウンドスケープが描かれていきます。最後の曲などはミニマルなギター音を背景にクラウスがごちゃごちゃとしゃべっているような歌っているような調子です。ローターの趣味全開だと思われます。

 ただしそんな曲でも実験にまつわる深刻さは皆無で、一見すると暗めの曲でも、根は底抜けに明るいハッピーなサウンドです。このサウンドが、世界のロック・シーンに影響を与え続けているわけです。入手困難な時代がけっこう続きましたけれども、やはり名盤は死なず!

*2012年5月8日の記事を書き直しました。

Neu! / Neu! (1972 Brain)



Songs :
01. Hallogallo
02. Sonderangebot
03. Weissensee
04. Im Glück
05. Negativland
06. Lieber Honig

Personnel :
Klaus Dinger : drums, guitar, vocal, Japan banjo
Michael Rother : guitar, bass