ジャパンのベーシストとして異彩を放っていたミック・カーンのソロ・アルバム第三弾「ベスチャル・クラスター」です。発表は1993年、ドイツのジャズ・レーベルCMPからの発売です。当時から日本でも発売されていましたが、再発も日本から、さすがジャパンです。

 ミック・カーンはジャパン結成当初はリードボーカルだったそうです。結局、デヴィッド・シルヴィアンに席を譲るわけですけれども、ベースに専念するようになってからもフロントマンとしてジャパンのステージではプレイばかりではなくビジュアルでもしっかり目立っていました。

 カーンはシルヴィアンよりも早くソロ・アルバムを発表しています。ジャパン在籍時にすでに制作を開始していた「タイトルズ」がそれで、1982年11月の発表でした。その後はバウハウスのピーター・マーフィーとのダリズ・カーなど様々な活動を繰り広げていました。

 しかし、1987年にソロ第二作を発表した後、所属していたヴァージン・レコードとの折り合いがつかず、なかなかソロ・アルバムを制作することができませんでした。大停滞期があったわけです。その期間は成長のための機会であったと言うカーンはいい人です。

 もっともその言にも根拠があります。ジャズ畑で活躍するギタリスト、デヴィッド・トーンとの出会いです。「彼はベーシストとしての私を救ってくれた人だと思っています」とカーンは述懐しています。彼がツアーに誘ってくれなければ、ベースを弾かなくなっていたかもしれない。

 トーンの紹介でCMPのオーナーの知己を得たカーンは、スタジオの空き時間を自由に使ってアルバムの制作にかかりました。出来上がった作品はヴァージンに渡してそこからリリースされるはずでしたが、ヴァージンはEMIに身売りしており、結局CMPが面倒を見ます。

 そうして出来上がった作品が本作品「ベスチャル・クラスター」です。コア・メンバーはカーンとトーンに加えて、ジャパンつながりのスティーヴ・ジャンセンとリチャード・バルビエリの四人です。そこにCMPスタジオにやってきていたミュージシャンの客演を得ています。

 そこにはヨアヒム・キューンやデイヴ・リーブマン、グレン・ベレズなどCMP所属のアーティストや、ザッパ先生のバンドにいたエド・マンなんていう名前が見えます。これは理想的な環境だったかもしれません。いい感じのコラボレーションが実現しています。

 大変嬉しいことにカーンは独特のうねうねする太いベースを弾きまくっています。パーシー・ジョーンズとミック・カーンのベースは本当に凄い。内臓をかきむしられるような快感を感じることができるベースです。もうこれだけで何もいうことはありません。

 さらにカーンはボーカル、クラリネットやサックスなども演奏しており、マルチっぷりを発揮しています。ジャンセン・バルビエリとの共演でジャパンの背骨を感じつつ、トーンの鋭いギターやゲスト・ミュージシャンたちの渋い演奏がカーン独自の世界を演出します。

 フュージョンという便利な言葉があるはずですが、なぜかこのぶっといリズムの作品はそちらには分類されそうにありません。太古の世界を感じる、ジャズとロックが根元のところで出会ったようなそんなサウンドです。とにかく気持ちが良いサウンドです。

Bestial Cluster / Mick Karn (1993 CMP)