J・ガイルズ・バンドはデビュー以来8年間アトランティック・レコードで活躍してきましたが、いよいよその蜜月に終止符が打たれることになりました。本作品「モンキー・アイランド」は結果的にアトランティック最後のアルバムになってしまいました。

 本作品はスタジオ・アルバムとしては前作「ホットライン」から1年9か月ぶりとなります。その間、バンドはライヴ・アルバムを発表していますけれども、自分たちの音楽に変化を求めていたのでしょう、本作品では何とバンド名が変わりました。

 J・ガイルズ・バンドからガイルズへとバンド名を縮めたのです。以前、グランド・ファンク・レイルロードがレイルロードをとったりつけたりややこしかったですが、彼らの場合は気の迷いはここだけでした。次作からはまたJ・ガイルズ・バンドに戻ります。

 もう一つ大きな変化は外部プロデューサーを起用せずに自分たちでセルフ・プロデュースした点です。エンジニアも今後しばらく付き合うことになるデヴィッド・ソーナーを起用して、新たな布陣での出発となりました。しっかりと意図が感じられます。

 さらにサウンド面での大きな変化はゲスト・ミュージシャンの大々的な起用です。バンド・メンバーはまったく変わりませんが、トランペットとサックス、それにコーラスで総勢15人ものゲストが参加しています。これまでは最小限でしたから、これは大きな変化です。

 J・ガイルズ・バンドの場合、初期のブルース魂全開の時期と1980年代の特大ヒット「フリーズ・フレイム」を頂点とする全米大ヒット時期は結構な落差があるのですが、この「モンキー・アイランド」から明らかに後期に入ったことが分かります。

 ピーター・ウルフとセス・ジャストマンのコンビによる曲作りはこれまでも多彩な音楽を取り入れてブルース全開路線から距離ができつつありましたけれども、それでもロック・バンドがライヴで演奏することを前提にしたサウンド作りがなされていました。

 しかし、本作ではブレッカー兄弟を始めとするホーン陣とルーサー・ヴァンドロスやホイットニーの母シシー・ヒューストンまで入ったコーラス陣が全面的にサウンドを分厚くしていますし、音の録り方自体もライヴ的ではなくいかにもスタジオ的になっています。

 これはこれで一つの成熟であろうと思います。この頃、産業ロックなどと揶揄されるサウンドが流行していましたけれども、緻密なサウンドを追求するともれなく産業ロックと括られていました。彼らももれなく揶揄され始めたわけですが、むしろ誉め言葉でしょう。

 本作品ではアリフ・マーディンのストリングスも取り入れられており、鯔背なバラードにゴージャスさが加わっています。また意欲作である表題曲ではピコピコ・サウンドも使って9分間にわたるジャム演奏っぽいサウンドが聴かれます。

 ホーンが加わったことでマジック・ディックのハーモニカがやや影が薄くなりましたけれども、スティーヴィー・ワンダーのようにも聴こえる「ユアー・ジ・オンリー・ワン」での演奏では存在感を発揮しています。後の大ヒットを予感させる意欲作です。

Monkey Island / Geils (1977 Atlantic)