前作「ホットライン」からわずか半年で発表されたJ・ガイルズ・バンドの新作アルバムです。このインターバルから想像できる通り、これはライヴ・アルバムです。しかも2枚組。本領はライヴにあるJ・ガイルズ・バンドの新作としてはごく自然な感じもします。

 とはいえ、前作のライヴ「フル・ハウス」から3年半しかたっていません。スタジオ・アルバムが今一つ伸びきれないことに対するレーベル側の焦りのようなものも感じられます。ライヴ頼みとならざるを得ないとの評があることも事実です。

 しかし、1976年といえばピーター・フランプトンの「カムズ・アライヴ」がメガヒットを記録して、二枚組ライヴが売れるという業界にとっては思ってもみなかった現象が起こった年です。大手A&Mに対抗するアトランティックとしてはJ・ガイルズ・バンドに賭けたのかもしれません。

 本作品は1975年11月に行われた二つのライヴを記録したものです。一つは11月15日のボストンでのライヴ、もう一つは19日のデトロイトでのライヴです。ボストンは言うまでもなく、J・ガイルズ・バンドの出身地です。♪家に帰ってきた♪とステージから叫んでいます。

 デトロイトは彼らにとっては第二の故郷とでも言うべき都市です。前作ライヴ「フルハウス」もデトロイトの同じ会場でのライヴでしたし、何と続く1982年のライヴ・アルバムもこの会場で録音されています。よほど相性が良いのでしょう。

 アルバムは二枚組ながらCDではゆうに一枚に収まります。彼らのアルバムは総じて短めで、本作品も二枚組基準では短めです。ライヴなんだからもう少し足してもよかった気がしますが、勢いを重視しているのか、あるいは気が短いだけなのか。

 ライヴは「ホットライン」発売直後ではありますが、同アルバムからは「ラヴ-アイティス」1曲が選ばれているのみです。一番多いのは3枚目の「ブラッドショット」からで実に5曲、デビュー作から2曲、二枚目から2曲、ついでに4作目から1曲、5作目から2曲の構成です。

 新たに登場した曲はいずれもカバーで4曲です。J・ガイルズ・バンドのようなライヴ・バンドになると新作のプロモーションのためのライヴではなく、ライヴに新曲を足していくためのスタジオ・アルバムという位置づけになるのでしょう。

 ライヴの定番として選ばれた楽曲は何度も繰り返し演奏されることによって熟成されており、スタジオ作とは一味違う情趣を漂わせています。メンバーそれぞれのパフォーマンスの勢いがあると同時に落ち着きがあってとても気持ちが良いです。

 残念ながら定評あるピーター・ウルフのマイク・スタンド・パフォーマンスはレコードでは分かりませんが、超早口のMCはしっかり収録されていますし、観客の熱気も収録されていてライヴとしての完成度を高めています。骨太なロックによるパーティーです。

 白眉は「チャイムズ」でしょう。「招かれた貴婦人」収録の楽曲はほぼ倍の9分間にわたるごつくて渋いサウンドの応酬となっています。セス・ジャストマンもJ・ガイルズもマジック・ディックもそれぞれが白熱のソロを繰り広げます。本当にかっこいいライヴです。

Blow Your Face Out / The J. Geils Band (1976 Atlantic)