J・ガイルズ・バンドの6枚目のスタジオ・アルバム「ホットライン」です。オリジナルは変形ジャケットで、受話器が外れる仕様でした。前作、前々作と意味深長なジャケットでしたが、変形とはいえ、今回はとてもストレートなイラストがすかっとしています。

 前作からちょうど1年、アルバム制作とツアーをルーティーンのようにこなすハードワーキング・バンドの面目躍如といってよいでしょう。この頃の彼らのライヴの評判は極めて高く、パーティー・バンドとしての魅力を遺憾なく発揮していました。

 このアルバムが発表された頃には、ローリング・ストーンズやロッド・スチュワート、そしてスーパーヒットの先駆けとなる「カムズ・アライヴ」発表直前のピーター・フランプトンなどとJ・ガイルズ・バンドは一緒にツアーをしていました。

 J・ガイルズ・バンドは客席を盛り上げるにはもってこいのバンドだと認識されていたのでしょうが、それと同時にメイン・アクトを完全に喰ってしまったりしない安心感もあったのでしょう。パーティー・バンドというのはそういうバンドですから。

 ロンドン郊外に住んでいた頃、隣にコミュニティ・ホールがあって、週末となると地元のおじさんおばさんたちが子ども連れで集まるパーティーが開かれていました。そこから聴こえてきたのは地元のロック・バンドの演奏です。それがパーティー・バンドです。

 J・ガイルズ・バンドの本作品でも文句なく楽しい演奏が繰り広げられています。全米チャートでは36位ですから、結構なヒット作品だといえます。しかし、なかなかチャートを上り切れないともいえます。パーティー・バンドとしては一流ですが、チャート的にはB級でしょうか。

 この作品ではビル・シムジクを師匠と仰ぐアラン・ブラゼクもプロデューサーに名を連ねました。ブラゼクはこれまでもエンジニアとしてアルバム作りに参加していましたから、サウンドの方向性が変わったわけではありません。いつものJ・ガイルズ・バンドです。

 前作に比べるとカバー曲が増えました。この選曲が渋いです。1960年代のR&Bバンド、ハーヴェイ・スケイルズ&セヴン・サウンズの唯一のヒット曲「ゲット・ダウン」のB面曲「ラヴ・アイティス」に年代物のブルース2曲、そしてカーティス・メイフィールドです。

 オリジナル路線に訣別したわけでもなさそうで、忙しくて間に合わなかったということだと推測されます。おかげで、初期のブルース一筋だった頃のサウンドに近寄っていますし、前作ほどは凝った作りになっていません。ストレートなアルバムだと言えます。

 メンバーは不動の6人で、裏ジャケットに並ぶ6人のイラストが可愛い感じです。特に驚きがあるわけではなく、J・ガイルズのギターも、ピーター・ウルフのボーカルも、セス・ジャストマンのキーボードもマジック・ディックのハーモニカも快調です。

 際立ったアルバムとはいえないのでしょう。しかし、半世紀近くも経ってしまうと、J・ガイルズ・バンドが特別ではないけれども、ちょっといい感じのアルバムをこうして出していたことが重みをもってきます。ユーザー・レビューが概ね好意的なのもよく分かります。

Hotline / The J. Geils Band (1975 Atlantic)