ジェイムズ・チャンスとコントーションズは1980年5月から6月にかけて、ヨーロピアン・ツアーを行っています。本作品はツアーの最初の方、5月13日にパリのバン・ドゥーシュなるライブ・ハウスにて行われたステージを記録したライヴ・アルバムです。

 フランスでは録音して間もなくインヴィジブルという1978年に創設されたフランスのインディー・レーベルから発表されました。アメリカで発売されたのは2004年に至って、ZEレコードが活動を復活させてからのことでした。幻のアルバム感が強いですね。

 ここでのコントーションズは「ノー・ニュー・ヨーク」の頃とも、「バイ」の頃とも、「オフ・ホワイト」の頃ともメンバーがまるで違います。唯一少しだけ同じなのはジンジャー・リーことアーニャ・フィリップスのみ、彼女はジェイムズとは一心同体ですから特別です。

 ジェイムズは前年にもパリを訪れて好評のうちにライヴを終えているのですが、そこで何を思ったのかバンドを解散させ、アフリカのミュージシャンとバンドを作ることを目指して奔走します。しかし、これに失敗し、代わりに結成したのが総勢7名のこのコントーションズです。

 ちなみにこの後、ジェイムズはフレイミング・デモニックスなるバンドで活動しますけれども、そのメンバーともまるで被っていません。もはやバンド名を付ける必要などないと思われますが、なぜかバンドにこだわるジェイムズです。

 集まったメンバーは、デファンクトなどで活躍するドラムのリチャード・ハリソンやスティーヴィー・ワンダーのアルバムに参加するトランペットのロレンゾ・ワイチが少し名が知れるくらいというフレッシュな面々です。アメリカの音楽界はすそ野が広いです。

 本作品は驚きのマイケル・ジャクソン「今夜はドント・ストップ」のカバーから始まります。予想していないとカバーだと分かりませんが、タネ明しをされると比較的原曲に忠実なことが分かります。ジェイムズらしい疾走感あふれる演奏にがつんとやられます。

 カバーは全8曲のうち3曲を占めており、残りの2曲はジェイムズ・ブラウンの曲です。一つはJBの代表曲「アイ・ゴット・ユー」、もう一曲は1972年のヒット「キング・ヘロイン」です。ジェイムズが我々の前に登場したのはJBの曲でしたからこれはとても納得のいく選曲です。

 残りの5曲はオリジナルで、この配分の妙が光ります。最後は当然のごとく「コントート・ユアセルフ」で締めるというエンターテイナーぶりを発揮するジェイムズです。ライブとしてのまとまりも考えられていて、流れるような構成がかっこいいです。

 ドラムとベース、そしてギターがファンク魂あふれるぱっつんぱっつんの骨格を形づくり、そこにワイチのトランペットとジェイムズのボーカルとサックスが暴れまわるというロックには珍しいコントーションズの演奏です。暴れまくるサックスがやはり魅力的です。

 今回、改めて聴いてみて、意外とフリー・ジャズっぽくないことに驚きました。ジェイムズのサックスはそこまでフリーではなく、リズムやメロディーに寄り添って暴走しています。ちんぴら感が半端ないですが、全体は光速ながらも端正な演奏です。素敵ですね。

Live Aux Bains Douches Paris 1980 / James Chance & the Contortions (1980 Invisible)