前作の大成功を確固たるものにせんと、わずか7ヶ月のインターバルで発表されたJ・ガイルズ・バンドのスタジオ4作目のアルバム「招かれた貴婦人」です。当時、さほど珍しくなかったとはいえ、かなりのスピードであることは間違いありません。

 しかも、本作品は初めて全曲をピーター・ウルフとセス・ジャストマンのコンビが書いたオリジナル曲としました。それを考えると余計に制作期間の短さが当時の彼らの勢いを物語っている気がします。ただし、チャートでの成功に戸惑っていたととれないこともありません。

 それはジャケットにも表れているようです。これまでの武骨なロック野郎の姿はどこへやら、とてもお洒落で洗練されたジャケットに変わりました。とはいえ、ひっくり返すと、貴婦人を招いた紳士とはとうてい思えないいつもの6人が立っていてほっとします。

 このジャケットをデザインしたのはヴォーグ誌を筆頭に世界の一流ファッション誌を飾るファッション・イラストレーター、アントニオ・ロペスです。彼はジェシカ・ラングやジェリー・ホール、グレース・ジョーンズなどを発掘した人としても知られています。

 バンドにおよそ似つかわしくないロペスが描いたのはフェイ・ダナウェイだと言われています。あの大女優フェイ・ダナウェイです。これまたバンドに似つかわしくないと思っていたら、そんなことは全然なくて、しばらくすると彼女はウルフと結婚するのでした。

 日本では当時圧倒的にフェイ・ダナウェイの方が知名度は高く、このエピソードでJ・ガイルズ・バンドを知る人が増えたのではないでしょうか。かく言う私もその一人です。ちなみに、ツアーに明け暮れるロッカーと大女優が長続きするわけもなく、やがて二人は離婚します。

 いつものように周辺事項ばかり語っておりますが、この作品は彼らの作品の中ではずいぶんと酷評されています。商業的にも前作に続くゴールド・ディスクとはならず、ヒット・チャートでも51位どまりでした。せっかくの気合が空回りした感じです。

 サウンドはずいぶんと端正にまとまっています。少々のあらには目をつぶってワイルドに押しまくる姿はなりを潜め、それぞれの楽曲が一工夫も二工夫もされたあとが感じられます。タイトでルーズなサウンドからルーズが少しばかり矯正されてきました。

 ジャストマンはオルガンよりもピアノを多用するようになりましたし、マジック・ディックのハーモニカは心もち出番が減りました。J・ガイルズのギターも綺麗な音になり、ウルフのボーカルも声色が種々変化します。リズムも多様な顔をみせています。
 
 一方でウルフ・ジャストマン・コンビの曲作りはますます奥深くなり、時にキャッチーに、時に重々しく、多彩な曲を生み出しています。後に全米1位を獲得する方のJ・ガイルズ・バンドに近寄ってきました。初期のファンからすれば寂しい気がしたでしょうね。

 渾身の大作「チャイムス」を始め、けっして侮れない良い曲が並んでいて、これを過渡期の作品として埋もれさせるのはよろしくないと思います。これはこれでこの時期のJ・ガイルズ・バンドにしか作れないなかなか素晴らしいアルバムだと思います。

Ladies Invited / The J. Geils Band (1973 Atlantic)