割礼というバンド名からすると、ハードコア・パンクを連想しますけれども、名古屋発のバンド割礼は必ずしもハードコアというわけではありません。ハードコアと呼ぶには「俺たちのバンドにはスピード担当がいないからね」というわけです。

 割礼は1983年の結成当初「割礼ペニスケース日曜日の青年たち」と名乗っていました。いかにも若気の至りのようです。しかし、バンド名は短くしましたけれども、当初の決意をしっかりと胸に抱いて40年近く活動するとは大変立派なことです。

 本作品は割礼のオリジナル・アルバムとしては4枚目にあたる2000年発表の「空中のチョコレート工場」です。この時点ですでに結成から17年、アルバム・デビューからでも13年が経過しています。それで4枚目、寡作なバンドならではです。

 この時点でのメンバーは、中心となるボーカルとギターの宍戸幸司は当然として、ベースに菅原賢、ドラムスに松橋道伸の3人です。また、ゲストとして、山際英樹がアルバム全8曲中半数にあたる4曲でギターを弾いています。

 手元にある紙ジャケ盤は2021年にディスク・ユニオンから再発されたものです。そこにはボートラとして、本作品の楽曲「風」と「HOPE」の2曲のライヴが収録されています。それぞれ2013年、2018年で、ここでは山際をメンバーとした4人組でのステージです。

 ちなみにライブのドラムは松橋で変わらず、ベースは鎌田ひろゆきとなっています。なお、このバンドにはかつて早川岳晴もチェロとコントラバスで参加していたそうです。活動期間が長いといろいろなことがあるもんですね。

 ついでに申し上げると、ディスク・ユニオン限定特典として、「空中のチョコレート工場」と「HOPE」の2019年12月の吉祥寺でのライブ映像がDVD-Rとしてついてきました。こうして割礼の曲は長期間にわたってライヴで練りに練られていくのです。

 割礼はギター、ベース、ドラムスのロック最小編成のバンドです。そのトリオから出される音楽は、彼らへのインタビュー記事では「超絶サイケデリック・スローコア」と紹介されていました。シューゲイザーの言葉を使った記事にもお目にかかりました。

 粘っこいリズムにゆったりとしたスローなテンポでギターがうねる様はまさにサイケデリックそのものです。そして宍戸のボーカルは日本の土着ロックのそれです。暗黒フォーク路線とでもいうのでしょうか、ジャックスの早川義夫を思わせます。

 ボーカルも粘っこくてスロー、歌詞をはっきりと聴かせる歌い方です。そして長尺のギター・ソロ。まるで時代が判別できません。このアルバムを1960年代の作品だとされても違和感がありません。これが2000年の作品というところに割礼の強さを感じます。

 もう少し音がよければと思わないではありませんが、そこはボートラで補うこともできます。それになによりも、このうねうねとしたギターを聴いていたらもうどうでもよくなってきました。これは沼にはまってしまいそうな中毒性の高い作品です。

参照:「感受性の覚醒を誘引する超絶サイケデリック・スローコア」椎名宗之(Rooftop) 

Kuuchuuno Chocolate Koujo / Katsurei (2000 Disc Union)