ラヴ・アンド・ロケッツの3枚目のアルバムです。トーンズ・オン・テイルなどバウハウス解散後の活動を見ていたので、このバンドも短命ではないかと勝手に心配しておりましたが、順調に3枚目が発表されてほっとしたものです。

 前作からちょうど1年、「アース、サン、ムーン」と題されたアルバムは、まだ制作途中のようなジャケットに包まれて発表されました。しかし、よく見てみると、とても完成度が高いです。すべてが絶妙に配置されています。裏面には手書きの歌詞カードがありますし。

 メンバーの写真も撮影はロック・フォトでは定評のあるフィン・コステロが撮影しています。全体のトーンは彼らのゴシック・イメージを逆に強化するような白ゴシックできめています。写真を止めているテープがいい味を出していますし、見るからに味のあるタイポも素敵。

 このアルバムは、3枚目にして初めてセルフ・プロデュース作品となりました。このことによってサウンドががらりと変わったというわけではありません。ラヴ・アンド・ロケッツがいよいよ自らの向かう方向に自信を深めてきたということなのでしょう。

 また、いよいよキーボードやシンセサイザー使用のクレジットが消えました。前作もメンバーの担当楽器からは消えていましたけれども、今回はサポート・ミュージシャンも、唯一「ノー・ニュー・テイル・トゥ・テル」のモンキー・フルート担当のメル・ソープのみとなりました。

 恐らくシンセなどは使っていると思いますけれども、とにかくギターのサウンドが多彩なので、シンセと思われるサウンドもその多くはギターを使っているのではないかと思います。何かこのあたりにはメンバーのこだわりを感じます。

 考えてみればこのバンドはベース、ドラムス、ギターというロックとしては最小かつ最強のトリオ形態なのですけれども、それを感じさせない表情豊かなサウンドを奏でています。キーボードも多用しないにも係わらず、です。

 ダニエル・アッシュによるノイジーなカッティングのギターをさまざまに加工していることに加え、デヴィッドJのベースやケヴィン・ハスキンスのドラムもサウンドが一筋縄ではいきません。音の響きや表情に細心の注意が払われていることが分かります。

 この作品は前作をさらに推し進めて、とてもアコースティックなアルバムになっています。アコギが全面的に使用されていますし、全体のサウンドの仕上がりがアコースティックな感覚です。そこから感じられるのはとてもサイケデリックな色彩です。

 デヴィッドJはラヴ・アンド・ロケッツのアルバムの中ではこの作品が最も誇らしいと語っています。バウハウスよりもサイケデリックであり、かつよりロックンロールに近い、ラヴ・アンド・ロケッツでの演奏は楽しかったようです。確かに楽しそうであることは分かります。

 本作品からは「ノー・ニュー・テイル・トゥ・テル」がアメリカのロック・チャートでトップ20入りするヒットになっています。極めてイギリス的だったバウハウスから飛び出したラヴ・アンド・ロケッツがアメリカでヒットする。時代は変化しつつありました。

Earth, Sun, Moon / Love And Rockets (1987 Beggars Banquet)