グループ名の語感から、ジャガ・ジャジストのことを勝手にヒップホップ系の人たちだと思っておりました。全然違いましたね。語感はあてにならないものです。ただ、この作品などはジャケットがまたちょっとヒップホップ系に見えないこともありません。

 可愛らしいさくらんぼですけれども、これは4枚組のカードとなっており、他の3枚はブドウやベル、プラム(?)のイラストがかかれており、けっきょくこれはスロットマシンの絵柄なのでした。少しひねったコンセプトでジャガ・ジャジストの曲者ぶりが表われています。

 本作品はノルウェーのエクスペリメンタル・ジャズ・バンド、ジャガ・ジャジストの5枚目のスタジオ・アルバム「ワン・アームド・バンディット」です。発表は2010年で、その前年には初来日を果たし、本作品発表後にはフジロックフェスにも出演しています。

 ジャガ・ジャジストの中心はラーシュ、マーティン、リーネのホーントヴェット兄弟です。彼らの作り出すサウンドは、従来型のジャズにとどまらず、ロックやエレクトロニカなどさまざまな音楽をミックスしたものです。エクスペリメンタル・ジャズ・バンドと呼ばれる所以です。

 ウィキペディア先生はジャガ・ジャジストの所属するジャンルを「ジャズトロニカ、アシッド・ジャズ、フュージョン、アヴァンギャルド・ジャズ、エクスペリメンタル・ロック、ポストロック」と表現しており、もはやどこに分類して良いやら分からなくなってしまいます。

 彼らのサウンドはジャンル分けするならば「北欧」が一番しっくりきます。ECMレーベルなどから発表される北欧のアーティストはヨーロッパ・フリー・ミュージックの流れから、米国の「ジャズ」とは異なるテイストの「ジャズ」を育んでおり、彼らもそこに収めるとおさまりがよい。

 本作品はニンジャ・チューンからの2枚目になります。ラーシュは少しふざけながらではあるものの、本作品を「ワーグナー・ミーツ・フェラ・クティ!」と評しています。実際、ラーシュはある晩フェラ・クティを聴いている時にタイトル・トラックを思いついたのだそうです。

 もともとこの作品では予め全てを書いておこうと決めていたラーシュは、この時にすべてが腑に落ちたそうで、結果として本作品は「ポリリズムによるドラッグで混乱したワルキューレの騎行」のような作品になったということです。「ワーグナー・ミーツ・フェラ・クティ!」ですね。

 ラーシュはさらに本作品を「ザッパ的で、よりユーモラスなプログレッシブ・ロック」とも評しています。こちらの方がぴんと来ますかね。端正なインストゥルメンタル曲は確かにプログレ含有率が高いです。ポリリズムもワーグナーもプログレと親和性は高いですし。

 彼らは本作品を初期からのプロデューサー、ヨルゲン・トレーンのところに持ち込みますが、ヨルゲンは耳鳴りを訴えたために、ミックス作業はシカゴにて音響派トータスのジョン・マッケンタイアが行っています。ジャガ・ジャジストの世界的名声を知らしめる出来事です。

 本作品もノルウェーのアルバム・チャートではトップ10入りしていますし、日本でもオリコン・チャート入りを果たしています。ニンジャ・チューンらしく、クラブ系サウンドを愛好する人々により訴えかけるサウンドです。端正ながら熱い演奏はなかなか素晴らしいです。

One-Armed Bandit / Jaga Jazzist (2010 Ninja Tune)