早川岳晴のソロ・ライヴに行ってきました。この作品はその会場で早川さんから直接買ったお土産CDです。ライヴで演奏した曲も何曲か入っているので、大変面白かったライヴの余韻を味わうには最適な「完全オールベースソロの1発録りのアルバム」です。

 早川の参加した作品の数は膨大なのですが、どうやら「完全オールベースソロ」作品は初めての様子です。そもそもベースのソロ自体が珍しいですから、彼のような縦横無尽の活躍をするベーシストでないとなかなか出せない形態だと思います。

 ベースの魅力を聞かれて、「子宮にびんびん響くところ」と答えたのはスージー・クアトロでした。子宮のない私には理解できるわけもありませんが、あらゆる楽器の中で最も腹に響くのはベースであることは分かります。そのベースに特化した作品、大そう面白いです。

 早川は若い頃に松本英彦からベースの心得の一つとして、とにかく大きな音を出すこと、を教わったそうで、それで道を間違ったとジョークを飛ばしていました。中学時代にウッドベースを手に入れて以来のベース一筋人生で培われたベースは確かに大音量です。

 本作品は「完全オールベースソロ」ながらベースの弾き語りでボーカルも披露しています。まずはブルースの名曲「ユー・ガッタ・ムーヴ」、最初は英語、次いで変な日本語による歌詞を早川がしぶく歌います。日本語詞はなんとYahoo翻訳なんだそうです。妙な味わいですね。

 次いで数多くのアーティストにカバーされたレナード・コーエンの名曲「ハレルヤ」で、こちらの歌詞はシンガーソングロックンロラーとして知られる夢野カブによるものです。訳詞ではなく新しい歌詞です。ちょっと枯れた早川の声がぴったり合っていて素晴らしいです。

 ボーカルはこの2曲だけですが、もちろん伴奏はベースのみで、それが曲の雰囲気にぴったりと合っています。普通のギターによる弾き語りなんかよりも数段しっくりきます。世の中にベース・ギターの弾き語りが少ないということ自体が信じられなくなります。

 デューク・エリントンの超有名曲「キャラヴァン」のベース版も面白いです。早川は若い頃、フリー・ジャズと並行して松本を始めとする旧世代のジャズの大物ともよく演奏しており、そちらにも大いに愛情をもっているようです。それを象徴するかのような演奏です。

 ウッド・ベースによる曲は2曲あり、一つはチェロの翠川敬基の作品「あの日」で、これは二人のデュオ作品集「蛸のテレパシー」にも含まれていました。もう一曲は生活向上委員会時代からの盟友、片山広明の「マーチ」です。渋さ知らズのアルバムで共演していた曲です。

 そうした楽曲もベースのみとなるとまた表情が変わって面白いものです。特に「マーチ」は亡くなった片山への思いが詰まっているようで胸に迫ります。爆竹を連想してしまったエレキ・ベースもいいですが、アコースティックなベース・サウンドも魅力的です。

 後は早川が作曲した曲が4曲で、いずれも既発曲だと思われます。こちらもベースのみで演奏されると「剛胆にして繊細、狂暴にして甘美な低音空間」が目の前に現出して酔わされます。素晴らしく饒舌な早川のベースの魅力を堪能できる傑作だと思います。

Snakes of Four Colors / Hayakawa Takeharu (2019 地底)