ニムロッドとはアメリカの俗語でバカとか間抜けを指しています。元は旧約聖書創世記に出てくる人物で、箱舟のノアの孫にあたります。優秀な猟師だったそうですが、それをアニメ「バックス・バニー」で揶揄したのが俗語の語源だそうです。捻ってありますね。

 ばかや間抜けという意味だと分かると、ジャケット写真の皮肉がいよいよ明らかになってきます。そうしたセンスが実にグリーン・デイらしいです。本作品は彼らのメジャー第三作、前作から2年ちょうどの間隔をあけて発表されました。

 前作は「ドゥーキー」が大ヒットする中での制作でしたけれども、本作品はあれから2年、よりスーパースターになった自分たちを省みる時間が出来てからの作品です。より難しい作品作りになったものと思われます。前作は「ドゥーキー」ほどは売れませんでしたし。

 実際、グリーン・デイはアリーナ級のバンドになったことに、昔からのファンが感じていた以上に何とも言えない違和感を感じていた模様です。そんなこともあって、1996年暮れのヨーロッパ・ツアーはキャンセルしています。悩み深いグリーン・デイです。

 しかし、彼らは負けません。「ニムロッド」には彼らの気概が溢れています。ビリー・ジョー・アームストロングは、この作品をクラッシュの「ロンドン・コーリング」になぞらえています。確かに「白い暴動」から「動乱」を経て「ロンドン・コーリング」に至ったクラッシュと重なります。

 「ロンドン・コーリング」はパンク一辺倒から幅広い音楽性を前面に押し出した作品でした。グリーン・デイの「ニムロッド」もまさにそうです。キャッチーでポップなパンク・サウンドで押しまくってきたグリーン・デイはこの作品で自らの枠を広げています。

 冒頭の「ナイス・ガイ・フィニッシュ・ラスト」のイントロで鳴るギターを聴いたとたんに、これまでとは違うなと耳がぴくっとなってしまいます。ただし、それは序章に過ぎず、本作品にはブラスやストリングスも導入され、さらにはインストゥルメンタルまで収録されています。

 さらに「キング・フォー・ア・デイ」はスカですし、最大の問題作「グッド・リダンス(タイム・オブ・ユア・ライフ)」は終始アコースティック・ギターによる伴奏が曲を引っ張ります。前作までの一直線ではなくなりましたが、まるで違和感がないのがグリーン・デイです。

 そもそも異色なはずの「グッド・リダンス」は今や卒業式や結婚式の定番ソングになっています。何のことはない、グリーン・デイの作る曲が良いというだけのことなのでした。そのメロディーはパンクのフォーマットでなくとも十分に素晴らしいということです。

 ジャンル分けの恐ろしさは自分たちの音楽を評するために後付けで出来てきた言葉が逆にその後の自分たちの音楽を限定してしまうことです。彼らはその弊害に気づいて、皆のグリーン・デイ像に囚われずに素の自分たちで勝負したのでしょう。結果は大正解です。

 古今東西のパンク・バンドの誰しもが通る道をグリーン・デイも通過したということです。多くのバンドが失敗するところでしっかり成功しています。本作品は全米10位ですが、前作と売上は遜色ありませんし、その評価は時が経つにつれて高まっています。いい作品です。

Nimrod / Green Day (1997 Reprise)