まず話題になったのはジャケットです。ジャズ・ジャイアントの一人ソニー・ロリンズがブルーノートから1957年に発表した「ソニー・ロリンズVol.2」をそっくりそのままエミュレートしています。その徹底ぶりが凄いです。とてもいい感じに仕上がっています。

 ジョー・ジャクソンの第6作「ボディ・アンド・ソウル」です。ジャケットを拝借しているからといって、モダン・ジャズのアルバムになっているわけではありません。大成功した前作「ナイト・アンド・デイ」でみせたラテンやジャズのテイストをさらに進化させたようなサウンドです。

 この作品のアイデアは1983年の夏にロサンゼルスの寿司バーから始まりました。ジャクソンが、デビュー以来コンビを組んでいるA&Mレコードのプロデューサー、デヴィッド・カーシェンバウムと日本酒を酌み交わしながら音楽界を愚痴ったことが発端です。

 ちょうどこの頃は録音技術が進歩してきたことから、非人間的な雰囲気のスタジオにこもって、各メンバーが別々に演奏してたものを編集していくようなやり方が主流となってきた頃です。それじゃあいかんのだと。ホールの響きなども含めた音の質感を大事にすべきだと。

 そんなわけで二人はロケハンに走り、ニューヨークにある古いフリーメーソンの集会所に理想的な環境を見出しました。そこは近くにあったヴァンガード・スタジオが主にクラシックの録音に使っていたそうですから、一から環境を構築する必要もありません。

 場所の音響を最大限にいかしてバンド演奏を空気とともに捉えていったわけですけれども、ライヴの一発録りというわけではなく、そこはしっかりと作り込まれています。また、面白いことに録音機材はデジタルです。ジャクソン初のフル・デジタル作品です。

 機材もアナログにこだわるというわけではなく、当時の最先端テクノロジーを用いて、アナログな音をとことん拾っていくというマニアな姿勢が貫かれています。それでこそジョー・ジャクソンです。後にハイレゾに長らく背を向けてCDにこだわった姿勢と通じます。

 とまあついついジャケットやら録音環境などばかりを話題にしてしまいますが、大ヒット作「ナイト・アンド・デイ」に続くアルバムだけあって、ゴージャスなサウンドが展開されており、これまたジャクソンの傑作の仲間入りを果たした作品です。

 アルバムはジャクソンが内面を吐露した「ザ・ヴァーディクト」で幕を開けます。冒頭のホーン・セクションがアルバムのファンファーレのように聴こえます。時に分厚く、時には頼りなさげなソロで、と縦横無尽に活躍するホーンのサウンドが本作品の特徴の一つです。

 ラテン・パーカッションを使わないラテン風味の曲や、バイオリンなども使った意表をつく楽器のアンサンブルなど、細かなところにちょっとした工夫がされていて、はっとさせられっぱなしです。とにかく豊かなサウンドが流れてきます。

 発表から年月がたって、ますます本作品のタイムレス感が際立ってきています。1950年代ないし60年代の作品だといわれても分からないですし、逆に21世紀の作品でも通りそうです。まるで演歌の世界のように時間軸を狂わせてくる作品です。

Body And Soul / Joe Jackson (1984 A&M)