エクストリーム・ミュージックの立役者ホワイトハウスの4枚目の作品です。1980年に発表されたデビュー・アルバムから2年目にしてすでに4枚のアルバムを発表するという絶好調ぶりです。ホワイトハウスの勢いは止まりません。

 ところでこのアルバムは当初蛍光色の緑レコードで500枚だけプレスされ、そのうちなんと事前予約を受けて350枚が日本に輸出されています。セカンド・プレスの400枚を加えても3分の1以上が日本で売られたことになります。

 そうなると今に至るも多大な尊敬を集めるノイズ界の巨人ホワイトハウスは日本が育てたアーティストだったといっても言い過ぎではありません。クイーン、ジャパン、チープ・トリックの次はホワイトハウスだったんです。洋楽の世界における日本の位置はやはり独特です。

 本作品のタイトルは直訳すると「ペーター・キュルテンに捧ぐ」となります。当初は、キュルテンの説明に「サディストで大量殺人者」と添えられていましたが、後にそちらは省略されました。その説明通り、キュルテンは戦前にドイツで犯行を重ねた殺人鬼です。

 「デュッセルドルフの吸血鬼」と呼ばれた彼は約80件の犯罪を自白し、うち殺人が9件です。彼の物語は手塚治虫によって漫画化されているため、日本人にも馴染みが深いものがあります。そんなエクストリームな人間に捧げたエクストリーム音楽が本作というわけです。

 ジャケットはキュルテン本人ですが、この描き方は米国の有名な殺人者チャールズ・マンソンを描いたスペインのアルバムに倣っています。さらに、アルバムの冒頭には1970年代後半に英国で13人を殺したピーター・サトクリフ逮捕のニュースが流れます。

 「ヨークシャーの切り裂き魔」と呼ばれたサトクリフの逮捕は本作品を発表した前年のことです。歴史上の出来事ではなく、ほぼ現在進行形の事件で、とりわけ英国人には生々しく記憶されていた時期です。その凄味は半端じゃありません。

 ニュース音声に切り込むのはホワイトハウスのトレードマークとも言うべきエクストリームな高音ノイズです。もともと凄惨な犯罪など、人間心理のダーク・サイドと結び付けられがちなノイズ音楽ですが、ここではそれを逆手にとって堂々と結びつけてきました。

 それは開き直りにも似たものだったのか、ホワイトハウスはこの作品でこれまで以上に堂々としたタイトなサウンドを奏でています。迷いがない。デビュー作収録曲の超強力な再演を聴けば彼らの辿ってきた道のりが分かるというものです。

 「エクストリームは最高だ。それは共存を許さない。定義上ワン・アンド・オンリーだ。音楽は須らくこうでなければならない。私たちはこの音楽をそうやって作った。強力で激烈だ。他人?残念ながら最強は一つだけだ。実際、他に言うことは何もない」。

 本作品に添えられたマニフェストです。ぶんぶん低音ドローンとエクストリーム高音ノイズ、狂気のボーカルからなるホワイトハウスの音楽はそのマニフェストにまことに相応しいです。こういう美の形というのもあるのだということを思い知らせてくれる音楽です。

Dedicated to Peter Kurten / Whitehouse (1981 Come Organization)