何だこのジャケットは、と思ったのですが、これが絵だと聞くと俄然見る目が変わってきます。この写真と見まごうジャケット絵はローレン・サラザールというエアブラシの達人によるハイパー・リアリズム作品です。彼はハートのアルバム・カバーなども手掛けています。

 絵だと聞いていきなり不気味な感じがしてきたのですが、この裏ジャケットにはメンバー5人が整列している、お世辞にもハイセンスとはいえない写真が使われています。ハード・ロック野郎5人が無理してポップにきめようとしているようなテイストです。

 この作品はブルー・オイスター・カルトの6枚目のスタジオ・アルバム「ミラーズ」です。直前のライヴ・アルバムが好評で、ハード・ロック路線に回帰するかと思われましたが、ここは「タロットの呪い」や「スペクターズ」に素直に続くポップ路線となりました。

 最大の変化はプロデューサーの交代です。サンディ・パールマンの手から離れ、チープ・トリックやテッド・ニュージェントを手掛けていたトム・ワーマンがプロデューサーに迎えられました。ワーマンはヒット・メイカーですが、ハード・ロックには軽すぎると言われがちな人です。

 時代は1979年、こぞってアメリカのロック・バンドがこうしたポップな路線に変化していった時期でもあります。出発点がプログレだろうがヘビメタであろうが、どこか似通ったライトな雰囲気のキャッチーなロックに向かっていました。

 このアルバムを評して、まるでスティックスのようだとしているのがありましたが、確かにサウンド・プロダクションが似通っていて、私などは時代の音だなあと懐かしくなります。このあたりはワーマンの手腕が遺憾なく発揮されたということなのでしょう。

 しかし、残念ながら全米チャートでは44位とそこそこの順位は記録しましたが、ゴールド・ディスクは逃しており、商業的には失敗に分類されてしまいました。さすがに爽やかプログレのスティックスではなく、暗黒メタルのブルー・オイスター・カルトには無理がありました。

 とはいえ、このアルバムに収録された楽曲は結構充実していますし、とりわけバック・ダーマのリード・ギターはこれまで以上に魅力的なフレーズを奏でてとても素敵です。BOC初体験がこのアルバムだったとしたら、私は虜になっていた自信があります。

 アルバムには女性のコーラスが導入されたり、ストリングスが目立ったり、クラヴィネットの音にスティービー・ワンダーを感じたりと、確かにこれまでのBOCから踏み出した部分が多いです。それにハードロックらしいエリック・ブルームのボーカルが9曲中わずか3曲です。

 他のボーカルは「死神」以来のポップ面の顔となるバック・ダーマが4曲、ブーチャード兄弟が1曲ずつです。アラン・レイニアの提供曲「イン・ジー」などはアコースティック・バラードで、多重録音によると思われるコーラスが爽やかです。

 繰り返しになりますが、各楽曲は本当に充実しています。頭抜けているわけではありませんが、ちょっといい感じの曲が多くて、これはこれでブルー・オイスター・カルトの魅力が味わえます。初期のイメージ戦略が成功しすぎたのでさほど売れなかったという悩ましい作品です。

Mirrors / Blue Öyster Cult (1979 Columbia)