「ゴジラ」です。ブルー・オイスター・カルトの名前を日本中に知らしめたのはこの一曲「ゴジラ」です。時は1977年、子ども時代をゴジラとともに過ごした私たちが大人になり切っていない、ゴジラの記憶がまだまだ鮮明な時期です。

 海外のロック・バンドが「ゴジラ」という曲を演奏するというのはどこか面映ゆいものがありつつ、誇らしく思ったのを覚えています。この曲は後にゴジラ松井の大リーグでの入場曲になりましたから、米国での知名度もなかなかに高かったことが分かります。

 前作「タロットの呪い」で大ヒットを飛ばしたブルー・オイスター・カルトです。本作品も初期3作のヘヴィ・メタル路線から前作の「ソフト&メローの傾向」を踏襲しており、前作に引き続いてゴールド・ディスクに輝き、全米チャートでは44位にまで上がりました。

 ブルー・オイスター・カルトが他のヘヴィ・メタルやハード・ロックのバンドと違うのは、メンバー5人全員が作曲もすれば歌も歌う、さらにはギターやキーボードなど複数のメンバーが担当していることです。カリスマが発生しにくい状況です。

 本作でも5人がそれぞれ作曲していますし、アラン・レイニア以外の4人はリード・ボーカルもとっています。こうなるとハード・ロックではあるものの、メンバーそれぞれの個性が発揮されてメロディアスでポップな楽曲もどんどん登場してきます。

 とりわけリード・ギターのバック・ダーマは前作の「死神」の大ヒットの余勢をかって、本作でも「ゴジラ」やスローな甘い「アイ・ラヴ・ザ・ナイト」など最初期の彼らとは異なる曲を手掛けていて、アルバムの印象を左右しています。

 他のメンバーもメロディー・ラインを重視した曲を提供しており、コーラス・ワークがかっこいいので、うっかり聴いているとREOスピードワゴンかと思うような場面に遭遇します。ヘヴィ・メタルの風上にも置けないと思う人も多いことでしょう。

 さらに変化といえばブルー・オイスター・カルトの仕掛け人のサンディ・パールマンと盟友リチャード・メルツァーの作詞が2曲しかありません。しかも文学的なパールマンの曲は「アー・ユー・レディ・トゥ・ロック」です。暗黒オカルト路線はかなり薄らいでいます。

 しかし、ポール・マッカートニーの「愛しのヘレン」をペンネームにした怪しい人が「ノスフェラトゥ」なんて書いていますから、謎は深まります。また、同じレーベル所属の縁か、元モット・ザ・フープルのイアン・ハンターも歌詞を提供しています。

 若干、捉えどころのない作品なのですが、しみじみといい楽曲ばかりなので、聴きごたえは十分です。「ゴジラ」の中で出てくる日本語のアナウンスはご愛嬌にしても、各楽曲ともにカラオケ映えしそうなボーカルがカッコいいです。みんなが歌えるというのはいいものですね。

 さらにギターやキーボードの奏でるメロディー・ラインもとてもカッコいいです。日本人好みの哀愁が漂っていると思うのですが、あまり日本では売れていないのが残念です。1970年代のアメリカン・ロックの一つの高みにあったと思います。本当にいいアルバムです。

Spectres / Blue Öyster Cult (1977 Columbia)