ジェスロ・タルのフォーク・ロック三部作の第二作目にあたる作品「逞しい馬」です。ジャケットがまたまたかっこいいです。立派な馬を二頭率いるイアン・アンダーソンの姿はこれまたいかにもイギリス的です。後ろの壁の色など、荒涼としたイングランドの田園風景を思わせます。

 この作品はアンダーソンがロンドンのフルハムに建設したメゾン・ルージュ・スタジオで録音された初めてのアルバムです。このところのアルバムのフォーク寄りの内容とは裏腹に、立地はロンドン市内ですし、名前は英語ではなくフランス語。突っ込みどころ満載です。

 しかも、本作の録音は主に夜に行われたそうなのですが、何でもアンダーソンはお客が下見に来る昼間はできるだけ開けておいて商売を逃さないように気を使っていたのだそうです。微笑ましいというかアンダーソンらしいお話です。

 前作から1年が経過し、英国の音楽シーンはさらにパンク/ニュー・ウェイブに席巻されていました。多くのベテラン勢が新しい音楽に合わせようとする中で、アンダーソンは孤高の位置を貫きます。今となってはまったく正しい姿勢です。

 フォーク色を強めた前作の評判が良かったことにも気を良くしていたのでしょう、本作品もブリティッシュ・トラッドの香りがほのかに漂ってくるフォーク・ロック作品になりました。とはいえ前作に比べると、サウンドはよりタイトに、よりハードになってきています。

 歌詞も、前作は比較的英国の田舎生活をファンタジー的に描いた歌詞が多かったですけれども、本作品ではよりリアリスティックになったと評判です。実際、カントリー生活は都会の人が考えるほど薔薇色な訳がありません。甘い考えで移住するとろくなことにはなりません。

 サウンドもそれに合わせてよりハードになったということでしょうか。今回は古楽器のクレジットはなく、いつものバンド様式に戻りました。ギターのマーティン・バーとストリングス・アレンジのデヴィッド・パーマーが曲作りに参加していることは前作と同じです。

 また、本作品にはカーヴド・エアーのダリル・ウェイがゲストで参加して2曲でバイオリンを弾いています。2曲のうちの1曲はタイトル曲で、このバイオリンが素晴らしく曲に合っています。ジェスロ・タルとカーヴド・エアーの取り合わせはとても自然です。

 「逞しい馬」はダリルのバイオリンを抜きにしても素晴らしい曲です。アンダーソンの生み出すリフはいつもカッコいいです。トラクターに仕事を奪われる逞しい馬の悲哀を描いた歌詞にはあまり共感できませんが、馬が乗り移ったかのようなアンダーソンのボーカルは凄い。

 アンダーソンのメロディーは癖が強いですし、彼のボーカルはきっちりしていて破綻がないので、ジェスロ・タルの曲はどれもこれも似たようなものだと言われることもあります。それは恐らくはジェスロ・タルの強烈な個性のなせる業でしょう。

 ジェスロ・タルの作品にまた一つ素敵なアルバムが加わったということでもはや十分です。本作品は全英20位、全米19位とこの時期のフォーク色の強いプログレ作品としては十分すぎる成績を残しています。我が道を邁進するジェスロ・タルなのでした。

Heavy Horses / Jethro Tull (1978 Chrysalis)