スマホ向けRPG「ニーア・リインカーネーション」のBGM集です。ニーア・シリーズはスクエア・エニックスの看板商品の一つで、前作「ニーア・オートマタ」は550万本を売る大ヒットとなっており、そのサントラも10万枚を越えてゴールド・ディスクになっています。

 シリーズ最新作である「リインカーネーション」も2021年2月18日にリリースされるや初日に100万ダウンロードを記録するという大ヒットになっています。本作品は早々に発売されたそのBGM集です。美しいパッケージが映える力作です。

 制作にあたったのは有限会社MONAKAの代表岡部啓一と、同社のメンバーである瀬尾祥太郎の二人です。まだ若い瀬尾は大たい本作品の3分の1を任されています。この二人が作曲と編曲を行っており、トラックも彼らが作っていると思われます。

 MONAKAはナムコを離れてフリーランスでの活動をしてきた岡部が、「仕事の規模も次第に大きくなりはじめた頃」、「クリエイター同士が自由に手を取り、コンテンツの企画・制作ができる新しいタイプの組織が作れたら」と考えて立ち上げた会社です。

 「お客様(企業)、クリエイター様(協力先)、スタッフ(社員)の三者が相互協力する事で、魅力あるコンテンツと利益を生み出せる関係を構築できれば」というところが新鮮に写ります。あくまで明確な顧客が存在して、音楽を注文生産する。潔いです。

 ゲームのBGMといえば、今やスタンダードとなっている「ドラゴンクエスト」などもゲーム内ではピコピコ音の延長であったわけですが、現在のゲームはそんな段階をはるかに超えています。映画やテレビドラマのサウンドと何ら変わるものではありません。

 むしろ映画やテレビドラマに比べるとより音楽とゲームが密着しています。開発現場でも「曲が納品される度にぼくらはテンションが上がったり、聴き入ったり」、「この曲にはどういう絵が合うだろう?この曲にはどういうシーンが理想的だろう?」と考えるのだそうです。

 そうなると画面とサウンドはどんどん一体化していきます。岡部は前作までのニーアとは違う感じにしたかったそうですが、結果的にはファンから「音楽がすごくNieRだ」と言われたそうで、もはやニーアの世界観とサウンド作りが不即不離の関係にあることが分かります。

 得意とする音楽の方向性は、岡部は「情感のあるメロディー、ダンスミュージック」、瀬尾は「ピアノを取り入れた透明感のあるサウンド」だそうです。本作品のサウンドに耳を傾けているとこの二人の言葉はとてもよく腑に落ちます。ダンスミュージックを除いてですが。

 ジャケットに象徴されるように退廃的で美しい景色にサウンドが寄り添い、硬質なコンピューターによるサウンドが情感豊かなメロディーをいっそう際立たせています。ピアノも叙情に流れない張りつめたサウンドを鳴らしています。時おり入るコーラスがまた美しい。

 ゲーム音楽は今や若者が最も慣れ親しむ音楽なのかもしれません。音楽の神はここにも降臨しています。ゲームの世界を盛り立てるために考え抜かれた音楽は、邪念の入らない純粋な世界を現出しています。これぞ正しいサウンドです。今の若者は大丈夫です。

Nier Re(in)carnation / Original Soundtrack (2021 Square Enix)