ジャケット通りの作品です。マイケルとピーターのジャイルズ兄弟とミスター・キング・クリムゾンのロバート・フリップによるトリオ作品は、ジャケットにある通り、正装に身を包んだ英国紳士三人が笑顔でもって奏でる正統派ブリティッシュ・ポップです。

 どうしてもロバート・フリップがキング・クリムゾン結成前に在籍したバンドとして、クリムゾンと比べてしまいますけれども、むしろ比べるべきはモンティ・パイソンではないでしょうか。どこからどう聴いても、モンティ・パイソン的英国コメディの香りが濃厚です。

 マイケルとピーターのジャイルズ兄弟はロンドンに出てくるとバンドを結成するために「歌えるオルガン奏者」を募集したところ、やってきたのはホテルのラウンジ・バンドにいたフリップでした。歌えないギタリストのどこが気に入ったのが、とにかくこれでトリオ結成です。

 トリオが活動を開始したのは1967年秋のことです。フリップはまだ21歳でした。トリオはセッションを重ねるとデモ・レコーディングに勤しみ、早くも1968年2月にデッカ・レコードと契約を交わすことに成功します。電光石火の早業です。

 即座にレコーディングに入ったトリオは、1968年9月に早くもデビュー・アルバムを発表します。それがこの「チアフル・インサニティ・オブ・ジャイルズ、ジャイルズ&フリップ」です。売れたという話は聞きませんが、後の活躍もこれあり、何度も再発されて今に至ります。

 アルバムには前半が「ロドニー・トーデイ物語」、後半が「ジャスト・ジョージ」というタイトルの語りが入っています。前者が5パート、後者が4パートに分かれ、それぞれを挟むように楽曲が収録されるという、いかにもなコンセプト・アルバム形式となっています。

 「ロドニー・トーデイ物語」は太って醜いロドニーのお話、「ジャスト・ジョージ」はジョージという名前の男を知っているというただそれだけの話。典型的なブリティッシュ・ユーモアの世界です。とにかく皮肉っぽい言葉遊びの様相を呈しています。何とも老成しています。

 楽曲の方も飄々としたもので、アイロニーに満ちた英国流のひねくれたポップです。そこに「牧歌的でサイケデリックなサウンドの中にフリップらの天才が息づく」と指摘する隙が出てくる奥深いサウンドが展開します。ともかくサウンドも老成しているんです。

 曲だけだと13曲、このうち「どこにもいる男」と「木曜日の朝」の2曲がシングル・カットされています。その2曲を筆頭にかなりバラエティーに富んだサウンドです。アコギが美しいトラッド風、ボーカル・ハーモニーが際立つビーチボーイズ風、ミュージカル風とさまざまな曲調です。

 そう思って聴くと、後のキング・クリムゾンにつながるフリップのギターも活躍しています。ストリングス、女声コーラス、キーボードと多彩なゲストを交えた重層的なサウンドですけれども、とにかく正統派英国ポップです。ニール・イネスや10ccなどを思い浮かべます。

 このトリオにイアン・マクドナルドとピート・シンフィールドが入り、ピーターを追い出してグレッグ・レイクを招いたことでキング・クリムゾンが誕生することになります。この完成度の高いモンティ・パイソン的作品を聴いて、そのことを予想した人はいたのでしょうかね。

The Cheerful Insanity Of Giles, Giles and Fripp / Giles, Giles and Fripp (1968 Deram)